すごい過去
「なによりもまず、礼を言うっす」
ウィッキーは居住まいを正し、俺をまっすぐに見つめる。
「妹を助けてくれて、本当にありがとうっす」
まさか、こんなに素直に頭を下げるとは。ちょっとびっくりだ。
「改めて自己紹介するっす。ウチはマルデヒット族のウィッキー。その……さっきのことは謝るっす。ごめんなさい……」
「いや、もういい。サラの姉なんだし、水に流そう」
そう言うと、ウィッキーはほっとしたように息を吐いた。
「俺はロートス。ロートス・アルバレスだ。昨日この学園に入学したばかりの新入生だ。よろしくな」
この自己紹介に、アデライト先生が微妙な表情をしていた。なにが言いたげだが、それはさておき。
「それじゃあウィッキー、話の続きを頼む」
俺の促しに、彼女はコクリと頷いた。
「ウチとサラは、ヘッケラー機関で獣人にスキルを付与する研究の実験台として捕らえられていたんす。故郷の村を滅ぼされ、無理やり連れていかれて」
いきなり重い話になったな。
「機関での生活は地獄だったっす。人として扱われず、まるで動物かなにかのような目に見られていたんっす。獣人も人っす。獣に似た特徴があっても、どっちかと言えば人に近いはずなのに」
「スキルを持たないからってか」
「そうっす……」
部屋には重苦しい空気が流れる。
「ある日のことっす。ウチにスキルを付与する実験が成功したんす。ウチは『ツクヨミ』なんていう強力なスキルを手にいれたっす。それで、その力でヘッケラー機関に復讐してやろうとしたんす」
「それで、シーラを壊したというの?」
アデライト先生が質問を口にした。
ウィッキーは頷く。
「そう……あの子は被験体の獣人に対しても好意的に接していたわ。それを知らなかったの?」
「シーラはウチの担当じゃなかったんす。話をしたこともないっす」
先生の口振りは、事情をわかっているような感じだ。
「先生は、シーラという人を知っているんですか?」
「はい。私が機関にいた頃の、同僚といいますか。サラちゃんの口振りからするに、シーラがあの子の担当だったんでしょう?」
「その通りっす。後から知ったことっすけど、サラとシーラは仲が良かったみたいだったんす。ウチはそれを知らず、目についた研究員に片っ端から『ツクヨミ』をかけて回った……正直、手に入れた力を使うのが楽しかったというのもあったっす」
その気持ちは分からないでもないけどな。
「そんなことをして、どうしてお前はヘッケラー機関の刺客に?」
「騙されていたんす! ウチのせいでサラがどこかに捕まったって言われて、それで……ウチが機関のために働いたらサラを助けてくれるって!」
「けど実際はサラは奴隷として売られていた」
「そうなんす。だから、さっきは驚いたんす」
ふむ。俺はあごを押さえる。
「じゃあお前はもう、刺客でいる必要はないってことだな?」
「え?」
「そうだろう? サラは無事なんだ。俺のもとにいる。お前がヘッケラー機関に従う理由は何もない」
「たしかに……そうっす」
ウィッキーの表情が変わっていく。心の奥底から喜びが湧いてきているようだ。
「もう、刺客なんてしなくていいんすか?」
「そうだ。お前は自由だ」
ウィッキーの目に再び涙が見える。
しかし今度は意味が違う。
これは、歓喜の涙だ。




