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二割は正義感

「カマセイ団長の剣を指一本で……? そんなまさか……悪い夢でも見ているのか?」


「いや、夢じゃねぇ。俺もそう見えてる……!」


「なんだそりゃ! 集団幻覚でも見せられてるってのか!」


 目の前で起きたことを信じられないって感じだ。

 それは当のカマセイも同じだった。


「この……ペテン師がぁッ!」


 再び剣を振りかぶる。

 おいおい。マジか。


「力の差がありすぎると、わかり辛いよな」


 なによりも速く、俺の剣が風を薙いだ。

 俺が鞘から抜いたことすら誰も気付いていないだろう。

 そして、カマセイの剣、鎧、装備品、身に付けているものすべて、微塵となって消し飛んだ。


「うぁ……?」


 誰も彼も、何が起こったのかにわかに理解できなかっただろう。


「そんな……団長……!」


「帝国の豪傑が……嘘だろう……?」


「このような屈辱……!」


 騎士達が悔しがるのも無理はない。帝国の騎士団長であり、屈指の実力者であるカマセイが、何もできず武装解除され、おちんちんが丸出しになっていたのだから。


「こ、この……! 憶えてやがれ!」


 カマセイは残った片腕で股間を隠しつつ、跳ねるようにして去っていった。

 騎士達も、口惜しげにそれに続く。


 まったく、仮にも帝国の騎士団だってんなら、小物みたいな振る舞いすんなってんだ。

 やれやれと首を振り、溜息を吐く。この仕草は、転生者の特権みたいなもんだな。


「すげぇ……」


 誰かがそんな呟きを漏らした。

 それが皮切りになり、周囲の野次馬達が一斉に歓声をあげた。


「うおお! よくやってくれた! スッキリしたぜ!」


「あいつら、よそモンのくせにこの街で大きな顔をしやがって、ムカついてたんだよ!」


「心の底からスカっとしたわよ! 見ない顔だけど、あの男前は誰なのかしら?」


 野次馬は口々に賞賛の言葉を口にする。

 なんか、慣れないな。


「おいおい、やめてくれよ。俺は別に褒められたくてあいつを追い払ったわけじゃない。ただ単に、美味い飯が食いたかっただけさ」


 それだけを言って、俺は店の中へと戻る。

 店内から外の様子を窺っていたメイは、俺が店に入るやいなや手を握ってきた。


「あの、ありがとね!」


 詰め寄ってきた美貌に、俺はすこしのけ反ってしまう。


「ああ、いいよ別に。それより、注文いいかな? 腹減っててさ」


「へ? あ、ごめんね。まだ通ってなかったんだ」


「ああ。この店一番のオススメをたのむ」


「はいよっ! じゃあ、あたしが腕によりをかけて作るからっ」


 メイは腕まくりをすると、早足で厨房へと入っていった。

 俺は元居た席に座りなおす。


「キミ、すごいじゃないか! あのカマセイ・ヌーを追い払うなんて!」


 メガネの優男は興奮した顔つきだった。


「別になんてことないよ。あんな奴」


「謙遜も過ぎると嫌味になるぜ、にーちゃん」


 おっさんは相変わらず酒臭い息だ。


「あのカマセイは、帝国じゃちょっとは名の知れた剣士だ。この国にいても耳にするくらいでよ。人間性は最悪だが、剣の腕はピカイチって話なんだ」


「ふーん。あんなのがねぇ」


「……恩に着るぜ、にーちゃん。ダチの仇を取ってくれてよ」


 おっさんはしんみりした表情で酒をあおる。


 なんつーか。

 飯を食いに来ただけなのに、変な事件に巻き込まれちまったな。

 早くエレノアに会いに行かなければならないから、面倒事はなるべく避けた方がいいんだろうけど。とはいえ、俺の性分的に放っておくわけにもいかなかった。


「いや、でも本当に勇気のある人だよキミは。今まで誰も、あんな勇敢な行動に出なかったんだし」


「ほめ過ぎだ。腹が減ってイライラしてただけだって」


「またまた。そうやってクールに決めるところもカッコいいな~。僕達みたいな下心がまったくないじゃないか」


「茶化すなよ」


 別に下心がまったくなかったわけじゃない。メイが美人でおっぱいが大きいってことも、理由の八割程度はあるさ。

 ま、微々たるもんだろう。


 その後、メイが作ってくれたフルコースの料理を食べて、その日は宿に帰った。

 ふむ。

 めちゃくちゃ美味かった。

 それだけでも、助けた甲斐があったというもんだ。

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