忠告
帝国に辿り着くためには、北の国境を越えて北上し、いくつかの国を縦断する必要がある。
南から順に、ドーパ民国、ツカテン市国、ノルデン公国だ。ノルデン公国から船で海を渡れば、ヴリキャス帝国に辿り着く。
なかなか長い道のりである。いくらフォルティスが駿馬と言っても、数週間はかかるだろう。ヒューズと一緒に飛空艇で向かった時は、一晩で行けたんだけどな。今は状況が違うから仕方ない。
そういうわけで、俺はドーパ民国との国境に辿り着く。
国境に沿って建設された高い城壁が、王国との古い戦争の歴史を物語っていた。
「あ。あの、すみません。誰ですか?」
関門の上から、気弱そうな青年がひょっこりと顔を出していた。
「俺の名はロートス・アルバレス! 亜人連邦の使者としてヴリキャス帝国に向かう途中である! 盟主サラから話がいっているはずだ! 門を開けて頂きたい!」
事前に用意した文言を大きく口にする。ルーチェがこう言うといいよって教えてくれたやつだ。
「あ。はい。聞いてます。いま開けますのでちょっとお待ちください」
青年はぼそぼそと答えた。声ちっちゃ。
少し経ってから、国境の門が開かれる。頑丈そうな鉄門だが、ところどころ錆びついて今にも朽ちてしまいそうだ。
「あ。どうぞ。お通り下さい」
「ありがとな」
「あ。どういたしまして……」
青年はおどおどしながら頭を下げていた。
「なぁあんた」
「あ。はい。なんでしょうか?」
「喋る時いちいち最初に『あ』をつけない方がいいぜ」
「あ。はい。わかりました」
「つけない方が堂々として見えるからな。この俺のように」
「あ。気をつけます」
こうして俺は、ドーパ民国へと足を踏み入れた。
この時の俺は知る由もなかった。まさかこの国で、想像を絶する洗礼を受けることになろうとは。
入国してから懸命に馬を走らせ約数時間、フォルティスを休憩させるために最初に寄ったのは、ヨワイという名の比較的大きな都市だった。
「フォルティス、疲れたろ。もうすぐ日が暮れるし、ここで一晩休んでいこう」
俺の手に鼻先を当てるフォルティス。しばらく離れていたけど、しっかり懐いてくれているのは、ロロがしっかり世話をしてくれたからだろう。俺がいない間、ロロが俺という人物のすばらしさをフォルティスに説いていたという。ありがたいことだ。
宿をとり、フォルティスを厩舎につないでから、俺は晩飯を食いに街へ繰り出した。宿で夕食を取ることもできたが、せっかくなので見知らぬ国の街を見てみたかったのだ。
「そこなお兄さん! 飯屋をお探しじゃないかい?」
賑わう繁華街を歩いていると、ふと声をかけられた。
声のした方を見ると、店の前に立つザ・町娘といった装いの若い女性と目が合う。
「ああ。腹が減っててね」
「そりゃちょうどよかった! 是非うちに寄って行っておくれよ。安くて美味いって、街でも評判の店だよ」
「ふーん。じゃあそうしよっかな」
「そうこなくちゃ。一名様ごあんなーい!」
女性が開けてくれたスイングドアをくぐり、入店。中は繁盛していた。老若男女問わず、たくさんの客が楽しそうに飯を食べ、酒を嗜んでいる。
一見していい店だ。
「おい、あんた」
俺が席に着くやいなや、隣に座る厳ついおっさんが話しかけてきた。




