思いがけぬ道じゃよ
そんなまさか。
いや、確かにそう言われてみれば腑に落ちることもある。
エンディオーネの幼女然とした振る舞いには、俺も騙されたことがある。最初の転生の時もそうだ。そして今回も同じく。
エレノアは俺とは違って、ただの転生者だ。ただチートスキルを授かっただけの転生者に過ぎないエレノアが、それより上位に位置する女神を取り込むことは、考えてみれば確かに不自然かもしれない。
くそ。どうして気が付かなかったんだ。マシなんとか五世もそうだが、いつの間にかあいつらを信用している俺がいた。まったく甘すぎる。
いますぐ〈座〉に赴いて胸倉を掴んで問い詰めたいくらいだ。今はそれも叶わないが。
「エンディオーネがエレノアに神性を渡し、女神にした……何の為にそんなことを?」
「さぁな。そこまではわからねぇ。だが、神性を手に入れてからのあいつがおかしくなっちまったってのは間違いねぇ。聖女だかなんだか知らねぇが、あんな風に崇められて、持ち上げられてよ。あいつは、そんなこと望んじゃいなかった。ただロートス、お前さんが帰ってくることだけを望んでたんだ」
やるせない。やるせなさすぎる。
マホさんの感情が伝わってくるようだ。
俺に対する怒りと懇願。エレノアへの慈しみと憐れみ。
「だから俺に、エレノアを殺せと?」
「……もうそれしか方法がねぇんだ。アタシだって神族の端くれだからわかっちまう。神性に染まった生命は、どうやっても元には戻らねぇ。これ以上望まない生を続けさせるくらいなら、いっそ人の身を捨てさせてやった方がいいんだ」
カフェテリアは、重たい静寂に包まれた。
みな、今の話を頭の中で繰り返している。
沈黙が積み重なって、天井まで届こうとしたあたりで、のっぺらぼう少女がテーブルにお茶を運んできた。
ハーブの香りが湯気に乗って鼻をくすぐる。
だが、誰も口をつけようとしない。
のっぺら少女はじっとその場に立っている。顔がないから表情がわからないが、どことなく悲しそうな居住まいである。
冷める前に、俺はハーブティーに口をつけた。うまい。
「マホさん。その提案、俺は受けられないな」
「……なんだと? エレノアがあんなことになっちまったのは、お前さんのせいなんだぞ……!」
「だからこそ、受けられないって言ってるんです。俺のせいでエレノアがおかしくなったっていうんなら、責任を持って元に戻す。それが救うってことでしょう。マホさんの提案は、ただの諦めにしか聞こえない」
「アタシだってなぁ、できるならそうしてる! だが、無理なもんは無理なんだよ……! それがこの世界の理なんだ……!」
「世界の理を覆す力を、俺は知ってる」
神が作ったルールは、人の手によって壊すことができるんだ。




