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大層な呼び名

 つーわけで、亜人街に到着。


「あ、おかえりっす!」


「ただいま」


 研究所の前に立っていたウィッキーが、俺とアイリスに手を振ってくれる。それからぱたぱたとこちらに駆け寄ってきた。


「聞いたっすよ。マッサ・ニャラブが攻めてきたって。大丈夫だったっすか?」


「ああ、なんとかなった。ひとまずはな」


「そっか。無事でよかったっす」


 ウィッキーは豊かな胸を撫でおろす。


「ところで、セレンとコーネリアはどこっすか?」


「あいつらは後処理の為に国境に残った。だから、俺だけ一足早く戻ってきたんだ」


 王女ってのは大変だ。というか今更だが、お姫様が政治に関与するのってアリなんだろうか。

 俺のイメージ的に、王女ってのは政治に首を突っ込まないもんなんだけど。それも国によるのかな。セレンは優秀だし、両親をよく支えているんだろう。えらい。


「しかし……マッサ・ニャラブの奴ら。何を考えてやがるんだ」


「ロートス。ウチ、アヴェントゥラにいる知り合いの伝手でちょっと調べてみたんすけど」


 アヴェントゥラっていうと、グランオーリスの王都だな。


「何か分かったのか?」


「この国が瘴気の兵器転用を画策しているっていう噂は、前々から諸外国に広まっているようなんすよ」


「どういうことだ? マッサ・ニャラブの言いがかりなんじゃないのか?」


「ロートスは『百魔統率』を知ってるっすか?」


「なんか、聞いたことはあるな」


 エライア騎士団の一人がそんなワードを言ってたのを憶えている。


「王国から流れてきた冒険者の一人っす。『百魔統率』はその人物の職業で、二つ名にもなってる感じっすね」


「そいつが何か関係が?」


「瘴気に侵されたモンスターをテイムしているらしいっす」


「なに?」


「テイマーとして優れた能力を持つ『百魔統率』は、瘴気に侵されて暴走したモンスターを次々配下にし、今やこの国でも最強格の冒険者になってるっす」


「テイマーだって? おい、それってまさか」


 王国から流れてきたテイマーだったら、俺にも心当たりがある。


 ウィッキーは頷く。


「ロートスなら知ってると思うっす。『百魔統率』は、没落したダーメンズ家の嫡男。ヒーモ・ダーメンズっす」


 なんてこった。


「こんなところであいつの名前を聞くとはなぁ……」


 あいつが瘴気に侵されたモンスターを使役してる。

 そのせいで他国からいいらぬ嫌疑をかけられた。

 いや、そういうわけでもないだろう。ただ口実に使われただけだ。物事を深く考えない連中を扇動するには十分な状況証拠だろう。

 グランオーリスを狙う何者かが、暗躍しているに違いない。


「どうしたもんかな……まずはヒーモに会ってみるって手もあるが……」


 今はまだ小競り合いという域で済ませることができるが、このままじゃマッサ・ニャラブとの本格的な戦争になりかねない。


 そんな時だった。

 ウィッキーの白衣のポケットが振動する。念話灯の着信だ。

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