つよす
「詭弁は必要ない」
セレンが淡々と言い切った。
「どのような主張をしても、あなた達が侵略者である事実は変わらない」
動揺を感じさせない声だった。
「ダハハ。だったらどうするんじゃ」
「実力で排除する」
セレンの頭上に、天使の輪っかが浮かび上がった。
フリジット・エンジェルハイロゥ。俺が知る魔法の中でも最大級の規模と威力を誇るやつだ。
陣のど真ん中でこれを発動すれば、マッサ・ニャラブ軍は壊滅を免れない。
大きな魔力を要するとはいえ、セレンのフリジット・エンジェルハイロゥは反則級の強さだ。チートと言っても差し支えない。
そのことを、キーウィも察したようだった。奴の顔色が変化する。
「まじぃ」
気付いたところでもう遅い。天使の輪っかは、すでに構築を終えていた。
勝ったな。
「フリジット・エンジェルハイロ――」
だが。
飛来した投石の類が、セレンの頭上に浮かぶ天使の輪を粉々に砕き割った。
「――なん……だと?」
俺とコーネリアは、呆気に取られる。セレンでさえも、無表情のままびっくりしているようだった。
「フゥーッ。あぶねぇあぶねぇ。あんなもんを出された日にゃ、オラの兵士達は一人残らずあの世行きなんじゃ」
そんな馬鹿な。
ただの投石で、膨大な魔力の塊であるエンジェルハイロゥを破壊するだと?
ありえない。そんなのは、世界の理に反してる。
「……くそ。そういうことか」
俺は思い至る。
あの力は、サニーやハラシーフの力と同質のものだ。
すなわち〈妙なる祈り〉の片鱗。本来、人が秘めているはずの世界を揺り動かす力。
「おどれーたか? これがフルツ族の王であるオラの、勇者の魔弾じゃ」
「勇者の魔弾だと……?」
「えれー強さだろ? スキルを越えた力。王の力じゃ」
認めたくないが、たしかに尋常じゃない威力だ。
あの力の前では、セレンのフリジット・エンジェルハイロゥも意味をなさない。どれだけ強力でも、魔法は所詮スキルの模造品だ。つまり、エストから与えられた力の範疇を出ていない。
だが、人の秘めたる意志の力は、そんな理を越えたものだ。最高神エストの世界という枠組みから外れている。
「うおぉー! 我らが王キーウィまじすげぇーっ!」
「英雄の王! 英雄中の英雄!」
「フルツ族の誇りだお!」
マッサ・ニャラブ軍は沸きに沸いている。
まずいな。
正直、甘く見ていた。
俺は瘴気の呪いから解き放たれたし、セレンの魔法は超強力だし、それにアイリスもいる。
戦力的に十分だろうと高を括っていたのが間違いだった。
俺達は、知らず知らずのうちに慢心していたんだ。
敵にも英雄級の戦士がいることを、どうして考えなかったのか。
たしかに確率としてはほぼゼロに等しいが、まったくのゼロってわけじゃない。
サニーやハラシーフの例があるのだから。
「仕方ねぇな」
こうなったら俺も改めて覚悟を決めるぜ。




