ボタンひとつでやり直し
『教皇は、この世界をリセットしようとしている』
すぐに返事をできなかった。驚いたというよりは、ちょっと何言ってるかわからなかった。
「世界を、リセット? 文明を崩壊させるってことか?」
『いいや。そういった比喩じゃない。文字通り純粋な意味で、リセットをするつもりらしい』
突拍子もない話かもしれないが、女神の力ならそれができる。
まさか、世界をリセットとはな。背筋が凍るぜ。
「けど、教皇とエレノアの利害が一致してるってのはどういうことだ? あいつはそんなこと願うような女じゃないと思うが」
『そこまではわからない。僕が入手できたのは教皇の野望だけだ』
ろくでもない野望だな。まったく。
「わかった。エレノアの方も、早めになんとかしないといけないな」
『僕は引き続き内偵を続ける。また何か分かったら連絡するよ』
「ああ。頼む」
通話終了。俺は肩の力を抜いて、ソファに座りなおした。
はぁ。
頭が痛い。
「何の話っすか?」
ウィッキーが興味深そうに俺を見ていた。
「エレノアのことだ。知らない間に帝国の聖女様になってやがった。なにか聞いてるか?」
「いや。ここにいると外の情報はあんまり入ってこないっすからね」
「なら、一応話しておく。情報共有だ」
俺はエレノアの現状と、なんやかんやの事柄を説明した。
帝国で俺と一戦交えたことや、俺のことを憶えていたこと、そしてエンディオーネの神格を奪ったことも含めて。
「やばいっすね」
それがウィッキーの感想だった。
「同感だ。やばいんだよ」
「それ、放っておいていいんすか? けっこう重大な問題に思えるんすけど」
「わかってる。けど俺には、時間がないと思ってたから」
そろそろ行かなあかんなーとは思ってるんや。
「ここでの検査が終わったら、帝国へ向かおうかな」
「それがいいっすよ。取り返しがつかなくなる前に」
だな。
ウィッキーは椅子の上で足を組みなおした。
黒いタイツに包まれた脚線美が、俺の劣情をこの上なく刺激する。
こいつ、おっぱいだけじゃなく、脚まで魅力的とは。俺を脚フェチにする気か。
もうなってるよ。
「どこ見てるっすか」
「脚」
「正直に言えばいいってもんじゃないっす」
ウィッキーの溜息。
「実はな。エレノアのことももちろん重要だが、他にも気になってることがある」
「なんすか?」
「アデライト先生から聞いてないか? スキルのこと」
「……コッホ城塞で、スキルを手に入れるって話なら聞いたっす」
「そうだ。お前の『ツクヨミ』の例があるからな。先生は可能だと考えてる」
「スキルを付与するだけならできるだろうっすよ。けど、それで世界があんたのことを思い出すかは未知数っす」
「かもな」
とはいえ、可能性が一パーセントでもあるなら試さずにはいられないだろ。




