スパイ活動って楽しそう
「今のエレノアの家ってことか?」
『ああ。けれどおかしいところがある。大規模な建築物の割には、更地から完成まで数日と経たなかったらしいんだ』
「スキルとか魔法とかで急がせたとかじゃなくて?」
『だとしても速すぎる。あの規模のものを、そんな簡単に建てられるわけがない。少なくとも人の手では、ね』
間違いなく女神の介入だな。
よく考えれば、エレノアが聖女ってこともなんかおかしい。
そもそも俺が消えてからの従者だったルーチェやアイリスも、エレノアが聖女になっていることを知らなかった。
エンディオーネに話を聞きたいが、気付かないうちに【座】との連絡が途絶えている。
「エレノアが聖女になったのはいつなんだ?」
『二、三か月前の話らしい』
「それなのに、帝国民に認知されているのか?」
『教会による宣伝が凄まじかったんだ。瘴気から国民を守る救世主だと』
「なるほど」
そういうことならわからんでもない。
『聖女宮の不思議しかり、女神の御業だと信じられているのさ。だから、短期間でここまでの影響力を持てた。もちろん、彼女が現れてすぐは内部の反発も大きかったらしいよ。主に旧体制の高位聖職者達からのね』
「既得権益ってやつか」
『けれど聖女に仇為す者はすべて抹殺された。聖女に仕える、神聖騎士によってだ』
「神聖騎士?」
『すべてが若い女性で構成された実力者達だ。彼女達は常に影のように聖女に付き従い、その聖業をサポートしているらしい』
「……心当たりがある」
『そうなのかい?』
「ああ。詳しいことは言えないけどな」
おそらく、いや、ほぼ確実に、シーラ達アルバレスの守護隊だろう。
俺が消えた後、エレノアの影となり、そのまま聖女の騎士になったというところか。
やるせねぇ。
『ふむ。キミもなかなか事情がふかいようだ。ともかく、聖女エレノアはその実力を認められ、教皇の後ろ盾を得て国内最大の宗教的権威を手に入れた。その勢いはいまや教皇をも凌ぐほどだ。裏で糸を引いているのは、その教皇なんだけどね』
「エレノアは教皇に利用されてるってことか?」
『利害の一致という方が正しいかもしれない』
「というと?」
『内部に潜入して色々調べた結果、教会は本当に真っ黒だ。汚職だらけで目も当てられない。まさかここまでとは、僕も思っていなかったよ』
「そんなに」
まぁ、教会ってのは腐敗の温床というイメージがあるからな。元の世界でも歴史上宗教組織が腐敗する例は多かったし。宗教に限ったことではないかもしれないけど。
「詳しく教えてくれ。エレノアとどう関係があるのか」
『ああ。時間も限られてるから簡潔に伝えるよ。実は――』
そしてヒューズの口から、衝撃の事実が語られた。




