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毒はいつしか薬に変わる

 翌日の昼ごろ。


「検査の結果が出たっす」


 俺の泊まる客室にやってきたウィッキーは、研究者然とした佇まいで神妙に言った。


「なんか役に立ちそうか?」


 旅の疲れを癒すためにベッドでごろごろしていた俺は、すっと体を起こす。


「いや……なんて言ったらいいんすかね」


「悪い結果でも出たか?」


「というより。ロートス……あんたがまともだってことが、どうしても信じられないっす」


「どこからどう見てもまともだろ?」


 ウィッキーはじとっとした目をこっちに向けてくる。


「なんだよ。おっぱい触ったこと、まだ根に持ってるのか?」


「出会い頭に胸を揉みしだいてくる男がまともなはずないっすけど、今はそういうことを言ってるんじゃないっすよ」


「なに?」


「ロートスあんた。体の中も外も、全身が瘴気に侵されているっす。というより……体そのものが、瘴気化しているって感じっすね」


 瘴気化だと?


「どういうことだ」


「簡単に言えば、魔人化してるってことっす」


「魔人って言うと、あれか。サーデュークみたいな?」


「そうっす。魔王軍四天王のサーデュークも、魔人の一人」


 ウィッキーは文字がびっしり書き込まれた紙の束を手に、部屋の椅子に腰を下ろす。


「魔人の正体は、瘴気に適応した元人間っす。知性を失わず、瘴気による強化の恩恵を受けることに成功した稀有な個体なんすよ」


「じゃあ、適応できなけりゃ、下層にいたあのモンスターみたいになるってことか」


「そういうことっす。よかったっすね。あんなのにならなくて」


「そうは言うが、こう見えてクソみたいに辛いんだぜ。顔に出してないだけで、死ぬほど我慢してるんだ」


「魔人化しきっていないからっすね。瘴気が完全に馴染めば、その苦痛も消えるはずっす」


「……俺は、魔人になるのか? サーデュークの野郎みたいに?」


「それもすこし違うっす」


 ウィッキーはふるふると首を振った。


「確認されている魔人は四体。そのどれもが、魔王に忠誠を誓ったことによって瘴気に適応したっす。これは過去に討伐された四天王ルストーフの言からも明らかっす」


「魔王に忠誠だ? そんなもんするわけねーだろ」


「だから不思議なんすよ。あんたは瘴気を使いこなしているっす。おそらく世界でただ一つの例だと思うっす」


 オンリーワンってわけか。素直に喜べないな。


「……先輩からあんたに関する報告書が来てたっす。学園で瘴気の呪いに侵され、死に近づいているって」


「ああそうだ。瘴気にやられた人間はいずれ全身を蝕まれ死ぬ。先生にそう聞かされた」


「ところがっす。あれから状況は大きく変わったっす。瘴気に侵され始めた時とは、まったく違う状態だと思ってもいいっす」


「どういう風に?」


「なんでもかんでも分かるわけじゃないっすけど、今の時点でただ一つはっきりしていることがあるっす」


「もったいぶるなよ。結論を言ってくれ」


 ウィッキーの猫っぽい目が、真剣味を帯びて俺を見る。

 一瞬の沈黙が、いやに長く感じた。


「ロートス……あんたは、瘴気を克服したっす」


 なんてこった。

 俺は、瘴気を克服したのか。

 やったぜ。

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