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思い出の彼方

 できるだけ早く神の山に赴きたいが、セレンが疲弊していることを考えると休息も必要か。


「わかった。好きなだけ調べてくれていいぞ」


「えっ。そんな簡単に、いいんすか?」


「それで瘴気に関する研究が進むなら喜んで。どうだ、イケメンだろう」


「イケメンっす!」


 ウィッキーは立ち上がり、がばっと俺の肩を鷲掴みにしてきた。

 あっ。


 俺は瞠目した。

 電流が走るとはまさにこのことだろう。


 というのも、目の前でニットに包まれた美巨乳が揺れていたのである。

 そうなると、俺の手は自然とそのお胸を鷲掴みにすることになる。

 両の手のひらが、豊満かつ弾力のある柔らかさに支配された。


「ひゃんっ」


 ウィッキーの唇から、二年前よりもちょっと大人っぽくなった嬌声が漏れる。


「ちょ、なにっ……」


 俺の手が、ウィッキーのおっぱいを揉みしだく。

 その動きに合わせて自在に形を変えるおっぱい。

 有り体に言って、最高である。


「なにしてるっすか!」


 ウィッキーの怒声が聞こえた瞬間、俺の視界は真っ暗に染まった。

 ん。なんじゃこりゃ。

 真っ暗だ。完全なる闇である。


「あれ? これってたしか」


 覚えがある。

 ウィッキーのスキル『ツクヨミ』だ。


『このっ! なにしやがるっすか変態強姦魔っ!』


「えっ」


『許可もなくレディの体に触れるなんて! それも……こ、こんなぶしつけに……! 信じられないっす!』


「ああ。いや……そうか」


 こればっかりは弁解のしようもない。

 というか、する気もないし、する必要もない。


「仕方ないだろ。これは男の……というより、俺の性みたいなもんだ」


『なに開き直ってるっすかっ。あんたみたいなケダモノは、その『ツクヨミ』の中で反省しろっす!』


「やだよ」


 いくら『ツクヨミ』が時を引き伸ばしてるとしても、貴重な時間を無駄にすることはできない。


 『タイムルーザー』を有効活用していた時には考えられないことだが、今の俺にはまじで時間がないのだ。一分一秒も惜しい。

 おっぱいを揉むこと以外に無駄な時間を使うわけにはいかないのだ。


 俺は右腕に意識を集中する。

 そこから迸った瘴気の奔流が『ツクヨミ』の暗闇を一瞬にして打ち払った。


「なっ……ウチの『ツクヨミ』が……! なんで?」


 『ツクヨミ』を脱出して研究室に戻ってきた俺を見て、ウィッキーはこれでもかというほど目を見開いている。


「待つっすよ……? これは瘴気の特性っすね。確か、瘴気を操る魔人がスキルを無効化したという報告を聞いたことがあるっす。それと同じことをやった、ということっすか?」


「たぶんな」


 ウィッキーは顎に手を当てて、難しい顔で俯く。


「けどそれは、瘴気に侵されただけのモンスターにはできない芸当っす。魔王軍四天王クラスの実力がないとできない。つまり、それほど精密な瘴気のコントロールを必要とされるっすよ。一体、どんな訓練をすればそんなことができるようになるんすか?」


「わからん。俺はただ、必死で戦ってただけだ。必要に駆られたら、誰だってできるようになるんじゃないのか?」


「そんなわけないっす。普通なら、瘴気に触れただけでその毒性にやられてただじゃ済まないんすよ」


「だからこんなナリなんだろ」


 俺の体はボロボロだ。黒いアザだらけだし。

 ウィッキーは黙り込んでしまう。その表情を見るに、どうやら俺の境遇に同情しているようだ。


 こいつ、さっき俺におっぱい揉みしだかれたこと忘れてるんじゃないだろうか。

 そんな顔をさせたくないから、あえておっぱいを揉みしだいたというのに。

 そうだ。決して下心があったわけじゃない。


「そんなことより、俺の体を調べるんだろ? 瘴気の研究に役立つなら大歓迎だから、ちゃっちゃとやってくれ」


「あ、わかったっす。ありがとうっすよ。ロートス」


 女性らしい笑みを浮かべるウィッキー。

 それが余りにも魅力的なものだから、不覚にもドキっとしてしまう。


「じゃあ、ついてきてくれっす。もう一つの研究室に、機材があるっすから。あ、アイリスはここでくつろいでいてくれっす。あとで使いをよこすっす」


「かしこまりましたわ」


 ウィッキーは俺を手招きして部屋を出ていく。

 俺はその背中を追いながら、しんみりとしてしまうのだ。


 なぁウィッキー。お前は忘れているかもしれないが、実は俺はお前のおっぱい揉み放題の権利を頂いているんだよ。

 だから、そもそも文句を言われる筋合いはないんだ。


 そんなことを思いながら、溜息を押し殺すのだった。

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