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もう必要ないようだ

「驚きだな。驚きだ」


「驚くのも無理はありません」


 コーネリアはちょっとしたドヤ顔だ。


「ここ二年、この国における亜人の待遇は大きく変わりました。それもこれも、すべて殿下のご尽力あってのこと」


「セレンが?」


 俺の視線を受けて、セレンは小さく頷く。


「すごいな。王国じゃ考えられない。理想的な街だよ。亜人連邦の奴らにも見せてやりたい」


「それほどでもない。それに、亜人達の待遇は改善できたけど、肝心なところは変わっていない」


「肝心なところ?」


「人間の、彼らに対する見る目は、まだまだ冷たい」


「……そういうことか」


 たしかにそうだ。

 この街は亜人しか住んでいない。だから彼らも安心して暮らせている。

 これも一つの理想形なのかもしれないけど、セレンはたぶん、人間と亜人が手を取り合って暮らせる国を目指しているのだろう。

 亜人を奴隷扱いしてきた歴史がある以上、難しい道だろうけど。それを進もうとしているセレンは偉い。


「行けばわかるってのは、こういうことだったんだな。亜人連邦、というかサラは、この街のことを知ってるのか? ウィッキーと連絡を取ってるなら、知ってるはずだよな?」


「話は伝わっていると思います。けれど訪れたことはないでしょう。なにせ、この有様ですから」


 たしかにコーネリアの言う通りだ。

 ダンジョン化した廃墟の中にある街に来るのは難しいか。ただでさえ盟主は多忙なんだし。

 やがて俺達は二階建ての大きな屋敷に辿り着く。


「ついた」


「ここにウィッキーがいるのか?」


「そう。師匠の研究所」


「研究所……」


 建物的に研究所っぽくはないな。単純に大きな洋館って感じだ。

 まぁ現代日本には、洋館の地下にゾンビウイルスの研究所があるっていうゲームがあったくらいだし、洋館が研究所というのはおかしなことじゃないか。

 たぶん。


 セレンが呼び鈴を鳴らすと、内側から扉が開かれる。

 若い獣人のメイドが姿を見せ、ぺこりとお辞儀をした。


「お待ちしておりました。セレン王女殿下。村長の元へご案内いたします」


「よろしく」


「お連れ様も、どうぞ」


 というわけで、俺達は洋館に入った。

 広いエントランスには大きな階段があり、その裏に地下へと続く昇降機があった。


「エレベーター? こんなものまで作ってるのか」


「こちらは帝国から輸入した魔道具です。階段を使わず、魔法の力で階層を移動できるすぐれものです」


 俺の独り言には、メイドの獣人が答えてくれた。


「魔道具? 亜人街は帝国ともつながりがあるのか?」


「そもそもグランオーリスは多くの国と外交関係を結んでいます。帝国から魔導技術の提供だって受けているのです」


 コーネリアが補足してくれた。

 ふむ。王国と帝国の仲が悪く、王国とグランオーリスは比較的仲がいい。だから帝国とグランオーリスも仲が悪いと思っていたけど、そんなことはないようだ。

 政治ってむずかしいね。


「つきました」


 目的地にはすぐについた。

 地下二階の研究室。


「ちょりーっす。よく来たっすねー。歓迎するっすよー」


 その扉の先に、成長したウィッキーの姿があった。

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