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やってない

「この建物……こんなもの、以前来た時にはなかったと思いますが」


 コーネリアが訝しむ。


「瘴気によって時空が歪んだ結果、生み出されたというわけですか」


「ダンジョンの妙だな」


「まったくです」


 コーネリアは腰の剣を抜く。


「あのドームの中には上空からの魔法は届きません。駆除しなければ」


「無視すればいいんじゃないのか?」


 ドームに引きこもってるなら放っておけばいい。出てきたら魔法の餌食だ。


「いえ。ドームの中にいるモンスターを倒さなければ、亜人街へは辿り着けません」


「どうしてわかるんだ?」


「『コレクト・スレッド』。私のスキルです。目的地までの正しい道順がわかります」


「そういうことね」


 さっきも亜人街に近づいていると分かっていたのは、スキルの能力だったか。


「わかった。協力して奴を倒そう。一筋縄じゃいかなそうだ」


「まずは私が」


「いや、俺に行かせてくれ」


「あっ」


 先陣を切りかけたコーネリアに先立ち、俺は無造作な歩みでドームに近づいていく。


「マスター。お気をつけください」


「ああ。わかってる」


 その瞬間だった。

 ドームの亀裂から、真っ赤な光線が発射された。


「うお」


 俺は上体を後ろに傾け、リンボーダンスの要領でかわす。

 上を向いた俺の鼻先を赤いレーザーが通り過ぎていった。


「へっ。縄張りに近づくなってか? 上等だぜ」


 かっこつけたものの、あんなもんを撃ってきやがるなら近づくのは難しい。

 どうしたものか。


「フリジット・キャノン」


 セレンの声。

 直後、青白い砲弾がドームの壁に着弾した。

 轟音。

 冷気と共に粉塵が舞い上がる。


「やったか!」


 ゆっくりと視界が晴れていく。

 俺の期待も虚しく、朽ちかけのドームには変化ひとつない。


「まじか。あんなボロボロなのに壊れないのかよ」


「もともとボロボロなのです。ボロボロの状態で生まれてきたと言った方がいいでしょうか。見かけは朽ちていても、その本質は瘴気の塊です」


「そいつぁ固いはずだ。それで、どうする?」


 コーネリアはセレンとアイコンタクトを取る。


「ロートス。あたしとコーネリアは、以前ここに来た時あの獣と遭遇してる」


「なんだって?」


「その時は適当に相手をして逃げた。だから、ある程度は対策を立てられる」


「っていうと?」


「あの赤い光線。あれは心臓を正確に狙ってくる。あたしの『ロックオン』に似た性質。追尾はしないけど狙いはきわめて正確。だからこそ、逆手に取れる」


「心臓しか狙ってこないなら、防ぐのは簡単ってか」


 セレンは首肯する。


「コーネリア」


「はっ」


 一歩前に出るコーネリア。


「お任せください殿下。私が盾となります」


「おいおい、マジか。危険だろ」


「私は皆さんのように強くはありません。ですが、自分の身を守ることくらいはできます。そしてそれがそのまま勝利に繋がる。ならば、ここは私が適任でしょう」


「理屈じゃあそうだけどな……」


 俺の心配をよそに、コーネリアの蒼い瞳は決意に満ちていた。それでいて、決して驕ってはいない。


「わかった。頼む」


 コーネリアは命を賭けてセレンと共に戦うと決めたんだ。

 変に庇う必要はない。

 俺は、俺にできることをするだけだ。


「私が奴を引きつけます。その隙にドームへ!」


「おう!」


 コーネリアが剣と盾を構え前進。

 戦いの火蓋は切って落とされた。

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