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誓います

 夜が明けた。


 セレンが寝袋に入っている隣で、俺とアイリスは静かに寝ずの番を終える。結局、一度も立ち上がることはなかった。それくらい平穏な夜だった。

 俺達にとっちゃ徹夜なんて何の苦でもないが、セレンはそうでもないようだ。

 しかし、寝袋ですやすやと眠る一国の王女ってのは、なかなかレアな絵面だな。


 やがて朝陽が姿を現し、日光がセレンの瞼を照らす。翡翠のまつ毛がキラキラと輝いたかと思うと、ゆっくりと目が開いた。


「おはよう、セレン」


 もぞもぞと寝袋から出てきたセレンは、指先で目をこすり、口元を両手で隠してあくびを漏らした。


「おあよぅ」


 寝起きらしい舌足らずな挨拶。セレンは寝ぼけ眼のまま火の消えた薪の前に腰を下ろす。目線を巡らせているのは、コーネリアの姿が見えないからだろう。


「あいつならまだ戻ってきてないぞ」


 この場所から見えるところにもいない。

 昨日のことがあり、騎士達の野営地はセレンと離れた位置に敷いたからだ。近くにいるのは精神的に負担があると判断したセレンの気遣いだった。

 俺とアイリスがいれば護衛としては十分だし、そもそもセレンに護衛がいるかどうかは疑問だった、というのもあるだろう。


 ともかく、コーネリアが戻ってきたのは、セレンが一杯の水を飲み干した後のことだった。


「殿下。ただいま戻りました」


 はっきりとした口調で、直立のコーネリアが一礼する。


「彼女にお水を」


 俺は隣に置いている水筒を投げ渡す。


「ありがとうございます」


 半分ほど残っていた中身を一気に飲み干し、小さく息を吐くコーネリア。


「皆は?」


 セレンの短い問いかけ。

 コーネリアはその場に膝をつく。


「申し訳ありません。私の力及ばず、全員ここを去りました」


 なんてこった。


「まじかよ。全員か?」


「はい。一人一人に殿下のお心を説きました。ですが……さきほど、最後の一人が故郷に帰ると」


 コーネリアは必死に語っただろう。

 セレンと共に戦い、国を守るその意義を。

 その結果がこのザマ。


 だけど、どうしてか。不思議と悲嘆は感じない。

 疲労の滲んだコーネリアの表情は、どこか溌溂として精気に満ちていた。


「全員じゃない」


 セレンは小さく、しかしはっきりと言葉にする。


「あなたが残ってくれた」


 立ち上がり、コーネリアの手を取るセレン。


「しかしながら、私一人では、もはや騎士団とは言えません」


「そんなことはない」


「殿下……」


「皆、あたしのもとを去った。あなただけが残ったのはどうして?」


「それは」


 コーネリアはひと時だけ俯いたが、すぐに顔を上げる。

 青い瞳には、決然とした意志が感じられた。


「私は決めたのです。殿下と共に、この国のために戦うと。殿下は、この国の平和を背負っておられる。ならば殿下に仕える私も、この国の平和において全責任を担う覚悟を決めなければなりません。それが殿下と同じこころざしを保つことだと気付いたのです。たとえ力及ばずとも、この命ある限り殿下と共に戦うことをお約束いたします」


 力強い誓いの言葉だ。

 俺はセレンを見る。彼女は今、どんな表情でコーネリアの誓いを聞いているのか。

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