秘匿された歴史
「暗殺?」
「犯人は伯父様」
「……あいつも人のこと言えねーな」
「伯父様は戦争が終わることを望んでいなかった。あの人は、この地で覇を唱えようとしていたから」
「それで自分の親父を殺したのか。ろくでもない奴だな。うーむ。じゃあ、和平は……?」
「白紙に戻った。それどころか、伯父様はおじいさまを殺したのはメサの刺客だとして、周辺諸国に触れまわり、戦火を拡大させた」
少しずつ、話が核心に近づいてきたか。
「周辺諸国はヴェルタザール陣営とメサ陣営に別れて、大きな戦を始めた。そこかしこで大規模な戦闘が起こり、たくさんの民が巻き込まれ、この地は焦土と化していった」
俺は唾を呑み込む。
「それからはもうめちゃくちゃ。混乱に乗じて王国が介入してきて、この地を次々と併合していった」
「王国が……? そういえば、グランオーリスは王国から独立したって聞いたことがあるな」
「そう。伯父様は秘密裏に王国と手を組み、この地の諸国を侵略させた。ヴェルタザールは、真っ先にその傘下に下っていたし」
「とんだ売国奴だな」
サーデュークの株が俺の中でどんどん下がっていく。もともと低かったが、想像以上に下がる。
「王国がこの地をほぼ統一したタイミングで、伯父様は独立を大義として兵を挙げた」
「え? でも王国を招き入れたのはサーデュークの奴なんだろ?」
「あの人は、一度王国にこの地をまとめさせ、それをそのまま奪い取る算段だった。侵略からの解放という名目があれば、求心力も高まると考えていたみたい」
「アホ過ぎる」
賢いやり方とは言えないな。
策に走りすぎて、国を運営するっていうことの本質を忘れている。
「戦火はさらに広がった。地は痩せていき、民は苦しみ喘ぐ。そんな惨状を憂いたお父様とお母様は、悲劇を止めようと、神託を受ける為に共に聖地を目指した」
「聖地。それってもしかして」
「神の山」
「エストに助けを求めたのか」
「そう。数々の試練を乗り越えた二人は、最高神エストから超絶神スキルを得て、王国と祖国に反旗を翻した」
「熱い展開だ」
頼るのがエストってところがちょっとモヤっとするが。
「超絶神スキルを手に入れた二人は、神に選ばれし者としてこの地に生きる人々の希望となった。平和の為に戦う二人に民の心は集まっていき、次第に仲間が増えていった。戦いは、王国とヴェルタザール、そしてお父様達の三つ巴の戦いになった」
「……激しい戦争だったんだな」
その戦争があった時、俺はもうこの世界に生まれていたはずだ。だけど、そんな戦争の情報なんて知らなかったぜ。
アインアッカ村が田舎だったからってわけじゃないだろう。マッサ・ニャラブを間に挟んでいるとはいえ、あそこは比較的グランオーリスの地に近い。
俺の考えるところによると、王国が何らかの情報統制をしていたに違いない。そうじゃないとありえないしな。
「三つ巴といっても、やっぱり王国の力は特段大きかった。お父様と伯父様は、王国に対抗するため同盟を組まざるをえなかった」
なんか三国志みたいだな。
「そして、決戦が行われた。王国と、ヴェルタザール・冒険者同盟の決戦が」
ごくり。
なるほどな。
サーデュークは見殺しにされたと言っていた。
だんだん話、読めてきましたわ。




