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今だけはメタスキルです

「え……?」


 どこだここは。


 気付けば、俺はどこまでも続く闇の中にいた。今までアデライト先生の部屋にいたはずなのに。

 あの『ツクヨミ』とやらをくらったところまでは憶えているが、どうしてこうなった?


 俺はクソスキル『ちょっとした光』を発動。光源を獲得する。

 うーむ。暗い。

 しかし、『ちょっとした光』のおかげで多少はっきりと見える。歩いてみても何もない。どこまでも何もないことがわかる不思議な空間であった。


『ちょりーす。聞こえるっすかー?』


 空間に響くウィッキーの声。


「おい! なんだここは!」


『そこはウチの作り出した『ツクヨミ』の中っす。ざんねんっすねー。もうあんたは終わりっすよ』


「どういうことだ」


『その『ツクヨミ』の中では、時間の流れが千倍遅いんす。こっちでは一秒でも、その中では千秒。こっちで一分ならそっちで千分。長時間そんなところにいたら、精神がやられちゃって壊れちゃうっすよ。もうあんたは詰んでるんす』


 なるほど。アデライト先生が言ってた心が壊されるってのはこういうことか。


「わかった。この『ツクヨミ』とやらの効果時間はどれくらいだ?」


『はー? もしかして耐えるつもりっすか? ムリムリ! どんなに心を強く保っても、時間には勝てないっすよー』


「いいから教えろや」


「ぶーぶー。しゃーないっすねー。『ツクヨミ』の最大効果時間は二十四時間。つまりそっちの世界では二万四千時間っす」


 じゃあ一千日ってことか。なるほど。


「楽勝だな」


 アデライト先生だって何もしないわけじゃないだろうから、ウィッキーを倒して『ツクヨミ』を解除してくれるまで待つだけだ。正直二十四時間もかからないだろう。


「先輩がなんとかしてくれると思ってるんすか? それはちょっと考えが甘いっすよ」


「うるせぇ」


 俺はクソスキル『タイムルーザー』を発動した。

 体感時間を百万倍まで速める。


 勝ったな。


 一瞬にして、俺はアデライト先生の部屋に戻ってきた。


 と思ったら、建物の残骸の中にいた。


「なんじゃこりゃ!」


 俺は思わず叫ぶ。どうやら宿舎が破壊されたようだ。


「ロートスさん! 無事ですか!」


 先生の声。見ればウィッキーと凄まじい魔法の応酬を繰り広げていた。


 炎、氷、風、地、光、闇。色とりどりの魔法が飛び交い、互いに打ち消し合っている。まるで花火のようだ。きれいだな。


「どうせ精神崩壊してるっすよ! ご愁傷さまっす!」


 今この瞬間も宿舎の残骸が巻き上がり、どこかへ飛んで行っている。他の教師とか生徒とかなにやってるんだ。この騒ぎを見て駆けつけてもよさそうなものだが。


 それはともかく。


 俺は足元から手頃な木の棒を拾う。

 よし。これでウィッキーをぶん殴ろうかな。

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