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けっこうシリアスじゃん

 おい。

 うそだろ。


 こんなの、あんまりだ。

 久々に会えたってのに。まだ俺のことを思い出してもらってもいないのに。


 こんなことになるなら、もったいぶらずに瘴気でもなんでも使うべきだった。

 なんて愚かなんだ。俺って奴は。


 サーデュークが、セレンの胸からハルバードを引き抜く。


「殿下っ……!」


 よろよろと後退るセレン。

 咄嗟にコーネリアが支えるも、意味はない。

 セレンは派手に喀血し、力なく膝をつく。濃い色のローブが鮮血で赤く染まった。


「セレン!」


 叫びながら無意識的に思い浮かんだのは、サーデュークの背中へ斬りかかることだった。

 全身から瘴気を噴出させ、全霊をもって奴を殺す。

 もう、ここで呪いに喰われてもいい。


 だが、そんな俺の決意を制したのは、セレンの静かな瞳だった。

 地に両膝をつき、刺された胸を押さえて尚、翡翠の瞳は俺に待てと訴えていた。


「ホウ……? これはこれは……」


 サーデュークが意味深に頷いている。

「刹那においてそれほどの反応するとは、御見それしましたぞ。殿下」


 俺は目を凝らす。

 セレンの胸は確かに貫かれた。しかし、よく見ると急所は外れている。心臓は無事のようだった。


「殿下! しっかり! いま医療魔法を……!」


 駄目だ。

 瘴気によってつけられた傷は医療魔法なんかで治るものじゃない。それは俺が一番よく知っている。

 たとえ心臓が無事だとしても傷は深い。肺がひどく損傷しているだろう。あのままじゃ失血死か、あるいは酸欠で死ぬか。


 くそ。

 どうして今の俺には〈妙なる祈り〉がないんだ。

 あれがあれば、こんな状況全部ひっくるめて楽勝で解決してやるってのに。


「殿下……っ!」


 コーネリアも理解しているのだろう。もはやセレンに助かる術はないと。

 青ざめる彼女の頬に、セレンはそっと触れた。血で汚れた口元が動く。

 声にはならなかったが、はっきりとわかる。


 だいじょうぶ。

 そう言った。


 次の瞬間、貫かれた胸を押さえる手が白い輝きを放つ。


「あれは……」


 奇しくも俺がヴリキャス帝国で目にしたものと同じだった。

 エレノアが俺を殺すために放った光。

 その輝きが、今セレンの傷を癒している。


「なんと! よもやシューペルエイドとは!」


 サーデュークも驚いている。

 その言葉に、コーネリアをはじめとする騎士達にも驚愕が波及した。

 何度か聞いたことがあるぞ。たしか、究極の医療魔法だったか。


 セレンの胸の傷はたちどころに完治する。

 衝撃的な光景だった。

 俺も〈妙なる祈り〉を持っている時はあんな感じで治したこともあったが、見る側になるとやっぱり驚きは隠せない。

 深呼吸をするセレン。苦しそうだった呼吸は、すでに正常になっていた。


「殿下……?」


「へいき」


 何事もなかったかのように、すくっと立ち上がるセレン。

 一抹の安堵が、騎士団に染みわたっていく。


「フ。素晴らしいですな殿下。まさか、そのような代物を修めていらっしゃるとは。ですが」


 サーデュークの歪んだ口から、押し殺した笑いが漏れる。


「露見してしまいましたな。さすが我が弟の子。臣下を欺き、民を弄ぶのがよほど得意と見える」


 何を言っているんだ。こいつは。

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