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ここからはじまるファンタジー

 馬車から降りた俺を待っていたのは、コーネリアの不満そうな顔だった。


「殿下と何のお話を?」


「おっと。睦言の内容を尋ねるなんて、野暮な騎士団長もいたもんだな」


「ふざけないでください。私は至って真面目です」


「なら聞くな。お姫様からのお達しだ」


 面喰らって、コーネリアは馬車を見る。

 窓から覗くセレンの顔は、相変わらず無表情だ。


「それより、これからどうする?」


 俺は倒れた騎士が並ぶ野営地を見渡す。


「あんたの考えを聞かせてほしいな。騎士団長さんよ」


「……無論、予定通りメインガンを目指します」


「また同じようなことが起きるぞ。そしたらどうする? このゴロツキ共をちゃんとコントロールできるか?」


 コーネリアは俯き、小さな声で言葉を紡ぐ。


「あなたがいますから、大丈夫です」


「また俺が鎮圧するってか? ごめんだね」


 驚いたように俺を見るコーネリア。


「何故です? その為に同行しているのでしょう」


「俺はお姫様を守るためにいるんだ。間違っても残念騎士団のお守りをするためじゃねぇ」


「そんな……ではどうしろと? 彼らは、私の命令を聞きません。力で押さえつけることもできない」


「あんたの団長としての資質が問われているってことだろ。甘えんな」


 痛いところを突かれ、コーネリアはぎゅっと唇を結ぶ。


「殿下を無事にメインガンまでお連れするには、あなたの協力が不可欠ですっ。殿下をお守りするというのなら、彼らをどうにかするのも同じではありませんか」


「俺はそうは思わないからあんたが頑張れ」


「待って!」


 背を向けて馬のところに行こうとした俺の手を、コーネリアが咄嗟に掴んだ。


「お願いしますっ。助けてください! 私にできることなら、なんでもしますから……!」


 縋りつくように俺の胸倉を掴んでくる。


「ああそうだ。あなた、私のことを美しいと言っていましたよね? 皆を率い、無事に殿下をメインガンまでお連れできたら、私を好きにしても構いません。どうです? 悪い話ではないでしょう?」


 媚びるような笑み。懇願の瞳には涙が滲んでいる。

 溜息が漏れるわこんなん。


「はなせ」


 俺はコーネリアの手を払いのける。


「あっ……」


「今のあんたは、全然まったく魅力的じゃない。最初にあった時は、まだ騎士としての貫禄が残っていたのにな」


 よろめいて後退り、悄然と目を伏せるコーネリア。


「では私は、どうすればいいのですか……?」


 その問いは、誰に向けたものでもないだろう。彼女の迷いが、そのまま声となって漏れただけ。

 これに答えを示せだって? セレンのやつ、けっこうな難題を持ってきてくれたな。

 まったく。

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