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ピンチ到来

「ウィッキー? あなた、どうしてここに……」


 アデライト先生が驚いたように呟く。


「いやー。久しぶりっすね先輩。ウチもまさかこんな掃き溜めに来ることになるなんて思ってなかったっす」


 謎の女、ウィッキーが笑い混じりに言う。

 王国の最高学府を掃き溜め呼ばわりするということは、ヘッケラー機関というのはよほどすごいところなのだろうか。それとも魔法学園アンチなだけか?


 俺はクソスキル『イヤーズオールドアナライズ』を発動する。

 それによれば、ウィッキーの実年齢は十六歳。なるほど、アデライト先生の三歳下か。先輩後輩という関係は真実っぽい。


 正直、俺がこのスキルを使う理由はあまりない。ただ、女性の年齢って気になるよねってだけだ。俺も男なのだから仕方ないだろう。


「あなたが刺客だったのね」


「あらぁ? 知ってたんすか? ウチがここに来ること」


「そうね……」


「あぁそっかー。先輩には『千里眼』がありますもんね。なんでもかんでもお見通しってわけっすか」


 ウィッキーは漆黒のローブを纏っており、容姿がよくわからない。ただ、陽気かつお調子者的な口調にしては、かなりの美声であった。耳が心地よい。


 いや、相手は刺客なのだ。油断はできない。


「まぁそれなら話は早いっす。裏切り者の先輩には、死んでもらわないといけないっす。いやーほんとは恩のある先輩を殺すなんてやりたくないんすけど、上の命令には絶対っていうのが組織のルールっすからねー。しょうがない」


「わかってるわ。私もそれを承知で、機関を捨てたのだから」


 俺は置いてけぼりだった。もう帰っていいかな。


「あの、先生」


「気をつけてくださいロートスさん。あの子はああ見えてとても優秀です。気を抜けば一瞬で心を壊されますよ」


「いやあの……お邪魔みたいなんでもう帰ろうかと思ってたんですが」


 俺はおずおずを手を挙げる。

 こんなところにいられるかよ。俺をヘッケラー機関とやらのいざこざに巻き込まないでくれ。


「はー? 目撃者を生かしておくわけないじゃないっすかー。当然あんたにも死んでもらうっすよ」


「だったらもっと隠れる努力をしろよ。ドアぶっ壊して入ってきやがって。俺は巻き込まれ損か」


「そういうこっとっす」


「ふざけんな」


 さすがの俺も怒るぞ。キレそうだ。


「これでもくらえっすー」


 ウィッキーが両手をかざす。するとそこから黒い波動が生まれ、人の頭ほどの漆黒の球体が出来上がった。


「だめ……! ロートスさん、あの子の『ツクヨミ』に触れては――」


「もう遅いっす」


 その球体はとてつもない勢いで俺に飛来し、顔面に衝突した。


 そして俺は、その場から意識をはるか遠くへ吹き飛ばされたのだ。

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