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密会じゃあ

 反対するコーネリアを尻目に、セレンは俺を馬車の中に招いた。

 広い車内にはふかふかの椅子が備え付けられている。大体マイクロバスくらいの広さで、四人乗りのようだ。天井が高いせいか、けっこう広々と感じるな。


「それで、話ってのは?」


 対面に座ったセレンは、膝に手を置いて俺を見つめてくる。


「これからのこと。あなたに相談したい」


「メインガンまでの護衛なら、ちゃんとしてやるから心配しなくていいぞ」


「ありがとう。でも、頼みたいのはそれだけじゃない」


「というと?」


「彼女のこと」


 ほんの少し首の角度を下げるセレン。

 ふむ。コーネリアのことだな。


「助けてあげてほしい」


「助けるって? 騎士団長としての仕事をか?」


「そう。組織の長として彼女は未熟。だから、立派な団長になれるように支えてほしい」


「待った」


 まさかそんなお願いをされるとはな。


「悪いけど、正直そんな余裕はない。護衛だけでも無理してカツカツなんだ。騎士団長を支えるなんて、ちょっと荷が重いぜ」


「無理は承知の上」


 抑揚はないが、確固たる意志を感じる声だった。


「彼女は壁にぶつかってる。騎士団長としての重圧と、痛ましい無力感に苛まれて、今にも倒れてしまいそう」


「まぁな」


「翻せばこれは好機でもある。この壁を乗り越えれば、彼女はひとつ騎士として、人として大きくなれる。でも、それには誰かの助けが必要」


 言いたいことはわかる。

 だが俺だって死にそうなんだし、俺が死ねば世界は呪われたままだ。

 冷たい考えかもしれないが、騎士団長一人の成長なんかにかまけている暇はない。


「おねがい。あなたしか頼れる人がいない」


 セレンは床に両ひざをつき、深々と頭を下げる。

 一国の王女が、どこの馬とも知れない異邦人に頭を下げるのかよ。


「どうしてそこまでするんだ。騎士が不出来なら人を代えればいい。この国なら人材は豊富だろ。あの団長は公爵家の人間だって聞いたが、そのせいで他の優秀な人材の登用が制限されてるってんなら、あんまり賢いやり方とは言えないぜ」


 俺はあえて厳しい物言いをする。別にコーネリアのことが嫌いってわけじゃないけど、人の上に立つ者は多少なりとも冷淡さが求められるから。


「あなたの言う通り」


 セレンは顔を上げない。


「でも、彼女にとってあたしはたった一人の家族だから」


「家族? どういうことだ」


「彼女は、お父様の妹の娘。つまり、いとこ」


 驚きはしない。公爵家っていうんならあり得る話だ。


「だから、あたしだけは彼女を見捨てるわけにはいかない。王女としてふさわしい行為でなくても、それだけは譲れない」


 なるほど。


「まぁ、座ってくれ。膝、痛いだろ」


 俺はセレンの肩に触れ、彼女を椅子に座らせた。

 翡翠の瞳が、俺を真正面からじっと見つめる。


「話だけは聞くよ。たった一人の家族ってのは、どういうことなんだ?」


「彼女の父は十年前になくなってる。建国戦争の際に戦死した」


「なんだって?」


「そして母はその後を追って自ら命を絶った」


「は?」


 まじか、それ。

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