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それって光明やん

 お茶を淹れてくれる先生。


「どうぞ」


「いただきます」


 喉を潤す温かさが、疲れた体に染み入る。

 五臓六腑に染みわたるとは、まさにこのことやで。


「うまい」


「よかった」


「先生。あのあと大丈夫でした? 教頭になんか言われたりとか」


「多少の小言はありましたが、気にするようなことでもありません。それよりロートスさんの方が心配です。痣の具合はいかがですか?」


 俺は腕の包帯をほどき、痣を見せる。


「これは……大きくなっていますね」


「ええ。何度か瘴気を使って戦ったんですが、その度に痣が広がっていっています」


「……この調子だと、百日も持ちません」


「まじですか」


「百日というのは、あくまで安静にしていた場合の想定です。瘴気は宿る者に多大な力をもたらしますが、使えば使うほど侵食は早くなる。そういうものなのです」


 アデライト先生は深刻そうに言う。


「実際のところ、あとどれくらい猶予があるんでしよう?」


「これからまったく瘴気に触れずにいるとして、おそらく五十日ほど」


 まじか。思っていたより余裕がない。

 えらいこっちゃ抹茶に紅茶というやつだ。


「まぁ、なんとかしますよ」


 エレノアの件を片づけたら、今度こそグランオーリスに行こう。神の山に行けば、解決法は見つかるはずだからな。


「ところで先生。エレノアのこと、聞きましたか?」


「エレノアちゃん? いえ、彼女がどうかしましたか?」


「どうやら、帝国に寝返ったようですよ」


「……はい?」


 寝耳に水。鳩が豆鉄砲を喰らったような、そんな感じだった。


「帝国に寝返る? エレノアちゃんが? そんなの、初耳です」


「俺はイキールから聞きました。一部の上層部にしか知らされていないのかな。いずれ広まることだと思いますが」


「信じられません。どうしてあの子が」


「それについてですけど、本人に直接聞きに行こうと思うんです」


 俺が先生を訪ねた理由は、ここにある。


「ヴリキャス帝国への足を、なんとか用意してもらえませんか」


「ロートスさん。無茶なことを仰いますね」


 先生は早くも落ち着きを取り戻していた。


「これは俺の考えなんですが、エレノアはたぶん女神に操られてるんじゃないかと思うんですよね」


「女神……というと、ファルトゥール。いえ、帝国側についているのはエンディオーネという話でしたね」


 さすが先生。情報通だ。


「もしそうなら洗脳を解いて連れ戻します。万が一、自分の意思で帝国についたのなら、その真意を問いただしてから、連れ戻します」


「結局、連れ戻すんですね」


「帝国には煮え湯を飲まされてますからね。個人的になんかイヤなんですよね」


「ふふ。わかります」


 王国民の帝国嫌いは致し方ないと思う。

 そういう歴史的背景があるのだ。


「ロートスさん。話は変わりますが、いいニュースがあります」


「ん? なんですか?」


「あなたのことを思い出す手段に、目星がついたのですよ」


「なに!」


 俺がずばっと立ち上がったものだから、アデライト先生はびっくりして肩を震わせた。

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