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無職の宿命

 速い。

 まるで急降下する隼のようなスピードで、一直線にこちらに斬りこんでくる。


 俺は、鞘から半分ほど露わにした剣で初撃を受け止める。

 重い一撃だった。踏ん張りを効かせる余裕のなかった俺は、体勢を崩してたたらを踏んでしまう。


「よく反応した」


 追撃の刺突が俺の胸元に迫る。

 俺は華麗な体さばきでそれをかわす。間髪入れずイキールの連撃が打ち込まれたので、よく見て回避することに成功した。


「体の利く俗物だ」


 イキールの攻勢が速すぎて剣を抜く隙がない。

 見ない間に格段に強くなっている。魔法学園のクラス分け試験で見せたような無様は跡形もない。

 けど。


「いくら速くても、目が慣れてくるんだよなぁ!」


 イキールの横薙ぎ一閃を屈んで避けつつ、俺は抜剣からのカウンターを放つ。

 その切っ先は、イキールの鎧をかすめただけ。

 まじか。外しただと。


「不慣れな剣だな」


 蹴りが飛んでくる。俺は後ろに跳びながら喰らうことで衝撃を緩和させ、同時に距離を取った。

 周囲から声があがった。


「閣下すごい! なんて剣さばきなんだ!」


「あれが今年十六になる閣下の実力かよ! やはり天才であられる!」


「ああ! あの『剣聖降ろし』の前じゃ、どんな剣士も平伏すぜ! なぜならあのスキルは、英霊になった歴史上の剣聖をその身に降ろし、その剣術を自分のものにできるんだからな!」


「まさに神スキルだ!」


 なるほどな。強いわけだ。


「いいスキルだな。イキール」


「そうだろう。僕のような優れた貴族にふさわしいスキルだ」


 すまし顔で剣を構えるイキール。


「貴様もスキルを使ってかまわんぞ」


「気を遣わせておいて悪いが、俺はスキル持ってないんだ」


「なに?」


「俺は『無職』だからな」


 イキールは眉を歪める。

 数秒後、この場は爆笑の渦に包まれた。


「こいつ『無職』かよ! クソじゃねぇか!」


「まさか『無職』のくせに殿下にたてついたってのか? 笑えるー!」


「うおー! 『無職』って職がないってことだろ! 動物と一緒! そんな奴、社会の底辺で這いつくばる生きる価値のない下等生物に違いねぇ!」


「スキルを持ってないから亜人の使者なんかやってんだろうな! 自分より優れた者達の社会から逃げ出した負け犬だ!」


「ああ! マジでやばいな!」


 このくだり何回目だよ。

 兵士達は全員が嘲笑をあげている。

 だが、イキールはその限りではなかった。


「それはおかしな話だ。人間ならば誰もがスキルを持っている。たとえ最弱劣等職の『無職』だとしても、何らかのスキルを授かっていないわけはない」


 その言葉に、周囲の兵士達が感心する。


「たしかに、殿下の仰る通りだ。武勇だけでなく優れた知恵もお持ちとは」


「となると、あの使者は人間じゃないってことか?」


「やはり亜人か? 人間に見えるが」


 やんややんやと、兵士達から様々な言葉が飛ぶ。

 イキールは冷静だった。


「どうやら訳ありのようだ。だがそんなことは関係ない。ひとたび決闘を始めた以上、どちらかが斬られるまで続けるしかない」


「今のうちに降参したら許してやるよ」


「ほざけッ!」


 イキールは再び疾風となった。

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[一言] イキってはいるけどちゃんと強いなイキール
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