なんて言ったんだ
「双方の齟齬があったとして、此度は不問に処す。それでよかろう」
したり顔でイキールが言う。
クッソ偉そうだなぁ。
「よくありませんわ」
異を唱えたのはアイリスだ。
「まだそちらから謝罪を頂いていませんから」
丸く収まりそうなところにぶっこんできた。
「謝罪か。それはおかしな話だ。こちらは暴言を吐いた。キミ達は暴力を振るった。それでおあいこではないか?」
「いいえ。それではわたくしの気が晴れませんわ」
「感情でものを言うのはよくないな。女性の悪いところだ」
にらみ合う両者。
うーん。
流石にこれ以上はな。
「待った待った」
手を叩きながら言った俺に、場の視線が集中する。
「使者は俺だ。アイリスは同行者。だから俺と話をしろよイキール」
「居丈高だな俗物……人間が盟主の使者とは、まことなのか?」
「そうだよ。まずは馬を降りろよ。見下ろされてるのは癪だし」
あいにくフォルティスを連れてきていないからなー。
そんな俺の主張を無視して話を続けるイキール。
「我が軍に何の用だ。何をしに、我らの前に現れた」
「こっちの台詞なんだよなぁ」
国境侵犯してきたのはそっちだろうが。
だんだん腹立ってきた。
イキールがイケメンってだけで、殴りたくなるぜよ。
まじで。
「いやー。もし戦争しに来たってんなら受けて立つけど、そこんとこどうなんだ?」
「場合によっては、それもありうる」
「なんだと?」
「僕は国王陛下の勅命を受けている。密命と偽って亜人連邦に亡命した臣下を連れ戻せとな」
「あー。ルーチェとアイリスのことか?」
「わかっているなら話は早い」
「確かに密命って言ってたけど、別に亡命したわけじゃないと思うぞ」
「では何故、英雄の従者達が揃って亜人のもとに足を運ぶ? 越境は法で禁じられているのだぞ」
「そうなん? 知らんかったわ」
「……話にならないな」
「あーウソウソ。ごめんって」
まったく冗談の通じない奴だ。
「まぁでも、亡命ってのはほんとにないと思うぞ。ルーチェとアイリスが連邦に来たのは、俺をサラに会わせるためだし」
「なぜそんなことを?」
「話せば長い。なんだったら、サラと直接話すか?」
「なに?」
俺は念話灯を起動する。
『あ、ご主人様だ。さっきのなんだったんですか?』
「イキールがお前と話したいとさ。代わるわ」
『え? あの』
ぽいっと、念話灯を放り投げる。
それを受け取ったイキールは、明滅する念話灯に目を落とした。
「ガウマン家当主のイキール・ガウマンだ」
『あ……亜人連邦のサラと申します』
急に改まった声色になって、サラはこほんと咳払いを漏らす。
「ソルヴェルーチェ嬢はそちらにおられるか?」
『はい。いるのです』
「彼女には亡命の嫌疑がかけられている。アイリス嬢も同様だ」
『……亡命? そんな』
「使者のロートスなる者が言うには、誤解とのことだが……真偽のほどはいかに?」
『連邦の見解では、亡命だと認識していません。彼女達は、一時的に滞在している、いわば賓客なのです』
サラは淡々と応対している。
しっかり者になったなぁ。
しかし、感心している場合ではなかった。
次にイキールの口から飛び出した言葉は、俺の想像の遥か上を行く内容だったからだ。




