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口喧嘩やんこんなん

 ハラシーフが吹っ飛ぶ。

 ごろごろと地面を跳ねながら転がり、そして動かなくなった。

 不思議と、気まずい静寂が訪れた。


「勝負あったな」


 誰もが何も言えない雰囲気の中、俺が呟く。

 それが呼び水となったか。


「ふざけるなッ!」


 エカイユの戦士長が怒号を上げた。


「こんな決闘があるかッ! クソみたいな野次を飛ばしおってからに! 人間というのは実にクソじゃな! この結果は無効じゃ! 認められんッ!」


 そうだそうだと、エカイユ達が同調する。

 うーん。


「ちょっとこれ、どうするんですかご主人様」


 サラが困ったように俺の袖を引っ張る。


「ごめんって。でも勝つためには仕方なかっただろ」


「それはそうですけど」


 まぁ、こうなった責任は俺にあるから、そこから逃げるつもりはない。

 俺は戦士長達に近づき、胸を張って対峙した。


「あんたらの言い分も理解できないわけじゃないが、少し往生際が悪くないか?」


「なんだとッ!」


「どんな言い訳しようが負けは負けだろ。あんたらは負けたんだ」


「ほざけ! 不純な決闘の勝敗に意義などないわ!」


「じゃあどうやったら納得するんだ?」


「仕切り直しだ! 日を改めてちゃんとやり直せ!」


 そうだそうだと声をあげるエカイユ達。


「は?」


 それは面倒くさい。

 というより、俺にはそこまでの余裕がない。この腕の呪いが全身に広がるまで、多くの時間は残されていないのだ。


「あんたらさ。そうやって自分らにとって都合の悪いことに文句つけて、恥ずかしくないのか?」


「なんじゃと……!」


「実際の戦争でもそんな甘ったれたこと言うつもりかよ。今のは汚いやり方だ。卑怯だからノーカンだって? ボケも大概にしろよ。そんなんだから人間に支配されて奴隷に落とされちまうんだろ」


「死ね!」


 背負っていた大剣を抜き、大上段から振り下ろす戦士長。

 俺はそれを人差し指の先っぽで受け止めた。


「なっ……!」


「そんなやり方じゃ、いつまで経っても亜人は自由を手に出来ない。あんたらも薄々感づいてるんじゃないのか?」


「なにをっ! クソ人間がっ!」


 正直、俺が煽ってしまったが故にこんなことになってしまったから、サラ達には本当に申し訳ないと思っている。

 だが、あのままアイリスが負けてしまうよりかははるかにマシだろう。

 しかし、ここからどうするべきか。


「エカイユ的には強い者が偉いんだろ? なら、この状況を見てどっちが強いのかは明らかじゃないのか?」


「我らが敬うのは勝者ではなく強者だ。卑劣な手を使ってまで勝ちにこだわる人間には敬意の欠片も持たん!」


「まぁ、なんとなく言いたいことは分かるが……じゃあ、なにか。さっき俺が煽ったのは卑怯だって言いたいのか?」


「それ以外に何がある!」


「いやさ。あんな幼稚な煽りで逆上して負けるなんて、精神的に弱者だなーって思ってな」


「なんだと?」


「真の強者なら、あんな煽りにびくともせず決闘に勝ってたと思うんだけど」


「戯れ言を……!」


「エカイユの言う強さってのは腕っぷしだけなのか? 俺の故郷には心技体って言葉があるんだよ。精神・技術・肉体。何一つ欠けちゃいけない。あのハラシーフは体格に恵まれてるし、技も持ってるかもしれない。けど心がそれに伴っていなかった。だから負けたんだ」


「もっともらしい詭弁をベラベラと! そもそも貴様が野次を飛ばしたりしなければハラシーフは勝っていたのだ!」


「環境を言い訳にするんじゃねぇッ!」


 俺の一喝が、場を斬り裂いた。

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