鱗の種族
建物の外に出ると、そこには数人のエカイユ達が待っていた。
相変わらずいかめしい様子だ。俺達を見るや否や、恐ろしい殺気を放ち始める。
「戦士長。例の人間が」
「わかっておる。逸るな」
明らかに俺を意識してるやん。
ありがたいことだ。
エカイユの使者達に、サラが歩み寄って一礼した。
「ようこそアインアッカ砦へ。歓迎します。エカイユの戦士達」
それに長い髭の戦士長が応える。
「わざわざのお出迎え、感謝いたす。盟主殿」
エカイユの戦士達は全員が武装している。分厚い鎧に身を包み、長大な武器を背負っている姿は、やはり威圧感があるぜ。
「長旅お疲れでしょう。どうぞ中へ」
サラが手で促すが、エカイユ達はそれに応じようとはしなかった。
「盟主殿。お気遣い痛み入るが、なにぶん我々は社交辞令や回りくどいことが苦手でしてな。早いところ本題に入って頂きたい」
せっかちな野郎だ。
「お話が早くて助かりますわ」
そこで前に出たのはアイリス。その歩き姿はあまりにも優雅だった。
アイリスを見た途端、エカイユ達の様子が変わった。強者の佇まいを感じ取ったのだろう。
「おぬしは?」
「アイリスと申します。亜人連邦の代表として選ばれた戦士ですわ」
「なんと。このような女子がな。見たところマルデヒット族のようじゃが……魔法使いではなく戦士ということでよいのかのう?」
「ええ。もちろん」
マルデヒット族は魔力に長けた種族だ。だからアイリスもそうなのではないかと懸念しているのだろうか。
「我々エカイユ式の決闘では魔法は使わぬ。純粋な力と技を競う厳粛な儀式なのじゃ。そこんとこ、ちゃんと理解できておるのか?」
「あら。言われるまでもありませんわ」
いかにもな空気を醸し出しているエカイユ達に対して、アイリスは至ってほんわかした感じである。
今から決闘に臨むっていう感じじゃない。これでこそアイリスだな。俺のことを忘れても、本質は変わっていない。
「それにしても魔法の使用を制限するなんて。古風なことをなさっていますわね」
「なんじゃと?」
「わたくしが以前行った決闘では、魔法を禁じたりなどしていませんでしたわ。対戦相手は全ての力を出し切っていらっしゃった。わたくしは、それを真正面から叩き伏せたのです」
それって、エレノアとやりあった時の話か。
たしかにエレノアはバンバン魔法使いまくってたよな。それがあいつの強みなわけだし。
「何が言いたいのじゃ。マルデヒット族の女子よ」
「純粋な力と技のみ、などと仰らず、持てる能力の全てを駆使して決闘を致しませんか? そちらの方が、後腐れがなくていいですわ」
「……よほど腕に自信があると見える」
戦士長は眉を潜めると、一人の若いエカイユの肩を叩いた。
「ハラシーフ。神の息吹を使うのじゃ」
直後、エカイユ達からざわめきが起こった。
「戦士長……冗談だろう? あんな小娘を相手に」
ハラシーフと呼ばれたエカイユは、戸惑ったように言う。
あいつは確か、メリーディエスで俺の足を掴んだ奴だ。僅かながら〈妙なる祈り〉を使っていた。神の息吹っていうのは、おそらく劣化版〈妙なる祈り〉のことだろう。
「相手が望んでいるのだ。お前の全力を叩きつけてよい」
「しかし」
「エカイユと獣人。どちらが上かを決めるのが今回の決闘じゃ。戦士というのは、舐められたら終わりなんじゃ。あんなナマ言われて、引きさがれるわけないじゃろう」
「わかったよ、戦士長」
ハラシーフは背中の大斧を抜き、アイリスの前に歩み出た。
「運がなかったな、獣人の娘。素直に我らの掟に従えばよかったものを」
アイリスはただ微笑むのみ。
俺達は互いに目配せし、アイリスとハラシーフから距離を取った。
二人を囲むように円になり、即席の決闘場が形作られる。
ふと訪れる静寂。
今すぐにでも始まりそうな雰囲気だ。
ていうか、え? もう始まるのかい。
「いくぞぉ!」
先に動いたのは、ハラシーフだった。




