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 ちょうど服を着なおしたところで、従者の女性が俺達を呼びに来た。

 図っていたようなタイミングだな。


 俺とオルタンシアは、寄り添って部屋へと向かう。


「種馬さま……自分、嬉しいです。またあなたと、会うことができて」


「ああ。俺もだ。またオルたそに会えて嬉しい。それに、俺のことを憶えていてくれたなんて、諸手をあげて小躍りしたいくらいだ」


「あの時……マーテリアとの戦いの後、種馬さまはどこに?」


「こことは違う世界に飛ばされてた。俺に取っちゃ元の世界だな。二年間かけて、ようやく戻ってこれたってわけだ」


「じゃあ、みんなが種馬さまを忘れてしまったのって……」


「ああ。俺は世界との繋がりを断たれた。エストの呪縛から解き放たれたのは良かったけど、代償はでかい。でも、俺のことを憶えていたり、思い出してくれた人達もいる。オルたそもその一人だ」


「どうして自分は、種馬さまのことを忘れられずに済んだのでしょう……?」


「これは推測にすぎないけど、たぶんアナベルのおかげだ」


 そこで、オルタンシアは目を丸くする。


「会ったんですか……あの子に」


「ああ。オルたそに似てかわいい子だったよ」


 俺のことを憶えているのは特別な者だけだ。神に関係していたり、【座】に至っていたり、そういう人達は世界の理から外れたところにいる。だから俺の存在を憶えていたり、思い出したりする。

 そしてアナベルは俺の子だ。俺の血が半分流れている。そしてアナベルをお腹に宿したオルタンシアもまた、その血を循環させている。つまりそういうことだろう。


 俺達は部屋に到着する。

 テーブルには既に夕食が用意されていた。

 ちょうど腹が減っていたところだ。『ノーハングリー』や〈妙なる祈り〉があった頃は空腹はなんとかなったが、今はそうもいかない。まぁ、多少の我慢はできるけどな。

 風通しのいい豪奢な部屋で、すごい豪華な食事をとりながら、オルタンシアの浮かない顔を見つめる。


「オルたそ、教えてくれ。オルたそとアナベル、そしてジェルド族。いったい俺がいない間に何があったんだ?」


 オルタンシアは食事の手を止め、深呼吸。それからゆっくりと語り始めた。


「マーテリアとの戦いの時……種馬さまが自分を女王さまのところに送ってくださったんですよね?」


「ああ」


「自分が、みんなのところに戻った時には、種馬さまのことを憶えている人は……誰もいませんでした。女王さまに何度お尋ねしても、やっぱりだめでした」


 そりゃそうだろうな。

 一族の女王といってもただの人間だ。


「それから、女王さまはカード村とアインアッカ村に軍を残し、国に帰ったんです。自分もそれについて故郷に戻って……それからしばらく、すみません……塞ぎこんで、家から出ない日が続きました」


 なんてこった。

 俺のことを完全に憶えていたがために、精神的なダメージは相当大きかっただろう。

 自分一人だけが真実を知っていて、他の誰も理解してくれない。それは孤独以外の何物でもない。

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