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変わらない呼び名

 ジェルドの里は砂漠のど真ん中にぽつねんと位置していた。

 巨大な石の壁に囲まれた四角い都市。それがジェルドの里である。


 大規模なオアシスを中心にできた街らしく、悠然と佇む高い塔から清らかな水が滝のように流れ落ちている。

 風流だな。


「ここがジェルドの里だよ~ん」


 戦車から出た俺達は、軍隊を率いて里の中に入っていく。

 すごい暑いかと思ったが、そんなことはない。あの滝のおかげだろうか。


「オルたそはどこにいる」


「せっかちだね~。ほら、あそこ」


 アルドリーゼが指さした先は、滝が落ちる塔の根元だ。

 そこには、豪奢な巨大建築物がある。ジェルドの王宮か。


「案内するよ~」


 里の大通りを軍が行く。住民らはそれを興味深そうに眺めていた。

 わかっちゃいたが、女ばかりだな。それも露出度の高い服装ばかりだから、なんか歓楽街的な雰囲気を感じる。ここではこれが普通なんだろうけど、俺からすると全員がスケベな女に見えて目に悪い。いや、良い。


 フォルティスに乗って王宮まで辿り着くと、俺はすぐに中庭に通された。

 草木のある石造りの庭だ。四方を建物で囲まれており、天からは傾きかけた赤い陽光が降り注いでいる。人口の川が流れており、空調が効いていなくとも自然の涼しさがあった。


「あ」


 中庭には人影があった。

 俺の目に入ったのは、流れる清流にしなやかな脚を浸らせる少女が一人。


「……オルたそ」


 二年ぶりに見た彼女は、すらりとした長身の美少女に成長していた。シャギーの入った髪は腰まで伸びており。体つきも女っぽくなってかなりの色気を醸し出している。線の細い感じには中性的な魅力があった。


 長いまつ毛に縁取られた金の瞳は、あの頃と変わっていない。一人ぼっちで寂寞を抱きしめて、ぼうっとしたまなざしを川の流れに落としている。

 なんか、儚すぎるだろ。美しすぎるし。


 一目見てわかってしまった。

 彼女が過ごしてきた空虚な二年を。


 俺は消えてしまい、女王に子を奪われた。不自由はないにしても、ほとんど監禁のような生活だったはずだ。

 なんて可哀そうなんだ。


 彼女が脚を水につけているのは、ただ体を冷やすためではないだろう。干上がった心を潤すため。いくら水に浸しても、渇いた心は癒せないというのに。


 せせらぎを耳にしながら、俺はオルタンシアに近づいていく。

 それに気付いているにも拘らず、彼女は顔をあげることもない。


「夕餉まではまだ時間があるはずです。もう少しここに――」


「オルたそ」


 呼びかけた瞬間、オルタンシアの肩がびくりと震えた。

 金色の瞳が大きく見開かれ、それからゆっくりとこちらを向く。

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