怒り心頭
えらいことになった。
まさかこの国が戦争によって荒れ果てていたとは。
俺はファルトゥールの塔を後にし、アインアッカ村へと馬を走らせる。
「なぁアニキ。なんだったんだ? さっきの」
ロロは頭にハテナを浮かべている。確かに予備知識がないと何が何やら状態だろうな。
「いずれ説明する。ちょっと話が複雑でな。すぐには理解できないと思う」
「ふーん。まぁ気が向いたら教えてくれよな!」
「ああ」
気になることがある。
エルフの里やドボールは、そこまで荒廃した感じでもなかった。
おそらくそれは、マッサ・ニャラブ共和国の方角から攻めこまれたからだろう。
共和国やアインアッカ村と、エルフの里やドボールは、ブランドンを挟んで反対側に位置している。王都だったブランドンが壊滅したところで押し返したか、講和を結んだか。
いずれにせよ、これから向かうのは戦争によって被害を受けた場所だ。
気を引き締めていかないとな。
「アニキ。本当にアインアッカ村に行くのか……?」
ロロは浮かない顔だ。
「オイラ、あんまり気が進まないな。アニキが行くってんならそりゃついていくけどさー」
「アインアッカ村は俺の故郷なんだよ。戦争でよくわからないことになったけどな。ロロはなんか嫌なことでもあったのか?」
「オイラのおっとちゃんとおっかちゃん。アインアッカ村の近くで死んだんだ」
うお。
いきなり重い話になったな。
「亜人連合にさ。オイラのおっとちゃんも参加してたんだよ」
「戦死したのか……?」
「うん」
あれか。ガウマン侯爵が攻め入って来た時か。
たしかにたくさんの亜人が殺されていた。あの中に、ロロの親父さんもいたのかよ。
あの時の俺は、サラを救出することで頭がいっぱいで周りの亜人にまで気が回っていなかった。
今更ながら罪悪感が襲ってくる。あの場所に居合わせた俺的には、ロロに後ろめたい思いがあるのだ。
「おっかちゃんは、亜人連合が解散した後の、亜人狩りで殺されちまった。そんで、オイラは奴隷として売り飛ばされたんだ」
「ロロ」
「でも挫けちゃいねぇさ! いつもおっかちゃんが言ってたんだ。辛いことがあっても負けちゃいけねぇって! だからさ。どんな目に遭っても、オイラへっちゃらさ! こんなことでへこたれてたら、天国のおっかちゃんに顔向けできねぇよ!」
俺は何も言えなかった。
こんな時に何と言って励ませばいいのか。それを知るほど、俺は成熟していない。
「アニキ? どうしたんだ? あっ。同情ならいらねぇぜ。今時こんな話は珍しくもなんともねぇさ」
改めて、戦争の悲惨さを実感する。
人を使って代理戦争だと? ふざけるのも大概にしろ。
命をなんだとおもってやがる。
今度こそ許すわけにはいかない。
この世界の神は、俺がこの手でぶっ潰す。
もう決めた。
今、決めた。




