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叩きつけられた絶望

 ブランドンに到着したのは翌朝のことだった。

 目の前に広がる荒廃した都市。

 無残にも朽ち果て、崩れ落ちた城壁。

 破壊された門。

 ところどころ穴が空いた。焼け焦げた地面。

 かつて繁栄した文明の残滓が、戦闘の激しさを物語っていた。


「うそだろ……? ここが王都?」


 呆気に取られるしかない。

 本当にここがあの場所だってのか。

 一体なにが起こったら、こんなことになるんだよ。


「んあ……ついたのか……?」


 フォルティスの上で眠っていたロロが目を覚ます。瞼をこすり、あくびを漏らしていた。


「アニキ……?」


 破壊された王都を見たロロは、はっと息を呑む。


「ここが……王都? 本当にボロボロじゃねぇか」


「ロロ。教えてくれ。一体ここで、何があったんだ」


「そんなの、おいらにだってわかんねぇよ。話で聞いただけなんだ」


 ちくしょう。

 とにかく、中に入ってみるか。

 俺はフォルティスを歩かせ、かつて王都だった場所に足を踏み入れる。


「うわ……なんだよこのにおい」


 ロロが鼻を押さえる。


「くっせぇ……」


 そこかしこに転がった腐った死体。

 処理もされないまま放置され、一帯には死臭が漂っている。

 虐殺と略奪の痕跡。

 ロマンと希望に満ちていたいつかの王都は、今や見る影もない。


「クソっ」


 俺はフォルティスを走らせた。

 魔法学園はどうなってる。あの場所は治外法権だったはず。まだ人がいるかもしれない。

 そんなありもしない望みを胸に、俺は必死にフォルティスを駆った。


 まもなく、魔法学園に辿り着く。


「……そんな」


 同じだ。

 見えるのは、破壊しつくされた学園だけ。

 そして、生徒だったであろう若者の無残な死体が転がっている。


「むごすぎる」


 こんなことがあっていいのか。

 これは、あまりにも……あまりにも悲惨だ。


「なぁアニキ。もう出ようぜ。こんなとこ、なんもねぇって」


 ロロの不安げな声を無視して、更に奥に入っていく。

 気になるものが見えていた。広場にそびえ立つファルトゥールの塔だ。

 あれは神の産物。人の手でどうこうできるものじゃない。


「でっけぇ塔だなぁ」


 塔を見上げるロロが呟く。

 荒れ果てた広場から伸びるファルトゥールの塔は、朽ちることも壊れることもなく、二年前の状態のまま存在していた。

 いつかエレノアが開いた扉の前に向かう。見た感じ、固く閉ざされているようだが。

 俺はロロと一緒に馬を降り、扉に近づいた。


「なぁアニキ。こっから入れるのか?」


「わからん。開いたら入れるだろ」


「当たり前のこと言ってんなよー」


 その瞬間だった。

 扉に光る紋様が浮かび上がり、塔全体に広がっていく。


『よく戻りました。アルバレスの御子』


 この声は……聞き覚えがある。


「うわっ。いきなりなんだよっ」


 ロロがびっくりして俺に抱きついた。

 扉が、音を立てて開いていく。


『どうぞ。中へ』


 招かれているというわけか。


「アニキ……入んのか?」


「ああ」


「でもよ、何があるかわかんねぇぜ……?」


「心配いらない」


 そうだ。俺は今、安心している。

 それと同時に、すこしの落胆も。


「俺はこの声を知ってる」


 だから大丈夫。

 俺は逸る気持ちを抑え、ゆっくりと塔に入っていった。

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