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チャンピオンが

 それから。


 俺は順調に勝ち進んだ。

 この大会には国内から屈指の格闘家達が集まってくるらしいが、Aブロックの誰もが俺にかすり傷一つつけられなかったのは、どういうことかなー。


 俺はまともに戦ってすらいない。ちょっとビンタしたり、小突いたりしただけでことごとく対戦相手を倒してしまった。

 俺氏、最強過ぎる。

 そして今も、Aブロック最後の試合、つまり準決勝を制したところだった。


『けっちゃーっく! またしてもロートス選手の快勝だーッ! こんな展開が許されるのか! たかが『無職』の分際で連勝とは、にわかには信じがたい光景です! しかしこれが事実! 我々は今、歴史の生き証人になっているのかもしれません!』


 実況のお姉さんのよく通る声。観客からは親の仇に送るような憎しみと蔑みのこもった大ブーイングが発せられる。


「死んじまえ『無職』! てめぇなんて決勝でチャンピオンに殺されちまうに決まってる!」


「調子に乗っていられるのも今のうちよ! あんな『無職』なんかチャンピオンが倒しちゃうんだから!」


「そうだそうだ! あんな社会の底辺でしかない奴が神スキルを持った選手に勝てるはずがないんだ! 何かズルをしているに違いないぜ! その化けの皮を、チャンピオンが剝いでくれるんだ! みんな! それを楽しみにしようぜ!」


「わかってないなぁ。最初からこれは八百長なんだよ。チャンピオンが調子に乗った卑劣で汚い諸悪の根源である『無職』を、粛清するっていうショーなんだよ」


 やれやれ。

 まぁなんと言われようと俺は気にしてないんですけどね。

 『無職』だと連呼され、バカにされるのは構わない。というのも、俺はスキル至上主義の方こそクソだと信じてやまないからだ。ヘッケラー機関のせいで根付いた文化とはいえ、悪習なのは確実。それに踊らされる民衆達も憐れだ。そして同時に、愚かでもある。


 愚かな者達からの誹謗中傷は、本当に賢い者からの称賛に等しい。

 愚者に褒められることほど恥ずかしいことはない。むしろ、愚者からの迫害こそ誉まれだろう。

 そういうことだ。完全にな。


 俺は嵐のようなブーイングを背に、リングを去る。

 さて。

 決勝まで暇だし、Bブロックの様子でも見に行ってみるかな。マリリンおばさんの戦いぶりも気になるし。

 というわけで、俺はもう一つのリングに顔を出す。


「ん? あれ……?」


 そこで目にしたのは、リングの上に無様に倒れ伏すマリリンおばさんの姿だった。


『おおーッと! まさか! まさかまさかまさかーッ! チャンピオンのマリリン・マーリンここに倒れるーッ!』


 会場は熱気に包まれつつも、戸惑いと驚きが渦巻いていた。


『試合開始から僅か一秒! たった一撃でマリリン選手が昏倒ーッ! これは大番狂わせだーッ! Aブロックに続いて、こちらでも波乱の展開! ありえなーいありえないーッ! まじですかこれはーっ! 現実なのかーッ!』


 大いに盛り上がっている。

 だが、そんなことよりも。


「うそだろ……ここでかよ……」


 俺は、マリリンおばさんを打ち倒した対戦相手から目が離せなかった。


 華奢な後姿。そこだけ別次元にあるかのような錯覚。

 空色の長い髪と、ワンピースの裾をなびかせる少女。

 細くしなやかな四肢は、力強さなど感じさせない女性的な美の究極だ。


 少女が、ゆっくりと振り返る。

 美しく柔和な微笑み。

 華やかで優雅な佇まい。


『Bブロックを制した選手は、初出場のアイリス選手だーッ!』


 口の中がカラカラだ。

 それでも俺は、呟かずにはいられなかった。


「はは……これも、運命ってやつか?」


 もしそうだとしたら、非常に複雑な心境だぜ。

 ああ、まったく。

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