明後日の方向にいくやん話が
いや、本当に全然そんなつもりはなかったんだけど。ただちょっと調子に乗っちゃっただけで。
「あたしゃねぇ、この身一つで街一番の奴隷商に成り上がったんだ! 聞いて驚きな! あたしのスキルは『怪力無双』で、職業は『豪傑』なんだよ!」
「ええ……」
「そのあたしに腕力で勝負を挑もうってのかい!」
あーなるほど。
このおばさんは、腕力に大層自信があるみたいもんだから、俺の力を見て血が騒いだと。そういうことかな。
「ちょっと落ち着いてくれよ」
「いーや! こればっかりは許せないね!」
おばさんはヒートアップしてしまって、もう取り返しがつかない。
うそだろ。
「いいかい! 明日、街の闘技場で武道大会がある! そこで決着をつけようじゃないか!」
「はぁ? 意味がわからないんだが。なんでそんなことしなくちゃいけないんだよ。こっちは急いでるんだ。そんな大会に出てる暇なんか――」
「仕掛けたのはあんたの方だろがい!」
ええ。
いや、待てよ。大会か。
「その武道大会。賞金はあるのか?」
「ああ? そりゃもちろんあるよ。優勝者には百万エーンと、記念の盾が贈られる。でもそんなもん興味ないね。今のあたしゃ、あんたを捻りつぶすことしか考えてないよ!」
なんだこのおばさん。イカレてやがる。
しかし、賞金が出るのは好都合だ。旅には先立つものが必要だしな。
俺はライクマン族の子どもを一瞥する。
「なんだよ」
この生意気そうなガキを買う金も、それで工面できそうだ。
「お前を買う金を、武道大会で稼ぐことにするよ」
「へ?」
「すまんが、明日まで待ってくれるか」
「あ……ああ……」
なんか、拍子抜けしてる感じだな。
「お前、名前は?」
「へっ。人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るもんだぜ。おかっちゃんが教えてもらわなかったのかよ」
「ああ。たしかにそうだ」
俺は体を屈め、腕を組んでそっぽを向いた子どもと同じ目線になる。
「俺はロートスだ。ロートス・アルバレス」
「なんだいそりゃあ。えらく気取った名前じゃねぇか」
「そうか? 俺は気に入ってるけどな。ほら、俺は名乗ったぞ。次はお前の番だ」
「まだあんたがおいらの主人になるって決まったわけじゃねーんだ。名前を教える必要なんてないね」
とことんかわいくないガキだな。
まぁいい。この子は亜人奴隷だ。それくらいの反骨精神があった方がいいだろう。
「わかった。じゃあ明日、俺がお前を買った時に、改めて教えてもらうとするわ」
「へっ。無理だよあんたじゃ。そこのババアだって、ドラゴンみてぇにつえーんだぜ」
「だったら楽勝だな」
俺は立ち上がり、おばさんの脇を通り抜ける。
「明日を楽しみにしとく」
「そりゃこっちの台詞さね。捻りつぶしてやるから、覚悟しておくんだね」
「あいよ」
まったく、なんでこんな展開になるんだよ。
まぁ、なるようになるか。
とりあえず、泊まれるところを探さないと。
一文無しで泊めてくれる宿なんてないだろうから、野宿かなぁ。
しょぼん。




