商業都市ドボールに来たんよ
商業都市ドボール。
エルフの森と王都ブランドンの間にある、比較的大きな街だ。
一晩中草原を駆け抜けた俺は、フォルティスを休ませる意味も込めて、ここで休憩をとることにした。
以前エルフの森に行ったときは、急いでいたからこの街による暇もなかったし、ついでの観光みたいな感じだ。
「待っててくれよな」
街の入口にある繋ぎ場にフォルティスを置いて、ドボールの中へ足を踏み入れる。
朝の陽光が眩しい。なんか飯でも食おうかな。
「おーい、そこな男前さん。見てってくれないかい!」
キョロキョロしながら大通りを歩いていた俺に、快活なおばさんの声が届いた。
「男前って俺のこと?」
「そうさね。他に誰がいるってんだい」
「たしかに」
あまり実感はないが、成長した俺はかなりのイケメンになっているんだろう。このおばさんのお世辞という可能性もあるが、まぁほとんどありえないだろうな。
「何の店?」
俺はおばさんの後ろを見る。小綺麗な建物には、控えめに奴隷館と書かれていた。
「奴隷商か……」
「ええ。品揃えは豊富だよ。今朝入ったばかりの商品が並べてあるから、見るだけでも見てってくれよ」
俺はいつかのリッバンループを思い出す。
サラと出会ったのも奴隷屋だった。
「まだ奴隷なんて制度があるんだなぁ。二年しか経ってないんだからそんなもんか」
言いながらも、なんとなく懐かしい気持ちになったので、ちょっと入ってみることにした。
豪華な内装の部屋に、いくつもの檻が並べられている。
その全てが亜人なのは、リッバンループと変わっていない。
「力仕事に長けた屈強なストラ族。手先の器用なデックス族。スタミナに優れ長時間の労働にも耐えられるヴィタ族。使い勝手のいい種族が揃っているだろう?」
おばさんが自信ありげにアピールしてくる。
檻に入れられた亜人達は皆死んだ魚のような目をしていた。ここに来るまでにどんな目に遭ってきたんだろう。
亜人連合の蜂起は、亜人の社会的地位にいい影響をもたらさなかったようだ。
世知辛い。ここで亜人達を逃がすことは簡単だが、それが彼らの為になるかといえば疑問だし、そもそも根本的な解決にならない。
「マルデヒット族はいないか?」
「マルデヒット族だって? いやぁ……流石にそんな縁起の悪い種は置いてないさね」
「縁起が悪い? どういうことだ?」
「おや? あんさん知らないのかい? 二年前に反乱を起こした亜人連合の盟主が、マルデヒット族だったっていうじゃないか。だから、マルデヒット族は世間から忌避されてるんだよ」
「まじかよ」
そんな風になってたなんて。
「その盟主ってのは、どうなったんだ?」
「さぁ? 亜人連合そのものが自然消滅したらしいからねぇ。どっかで逃亡生活でもおくってるんじゃないのかい?」
「ふーん」
これは、サラとウィッキーの安否も気になるところだな。急ぐ理由がまた増えたぜ。




