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旅立ちはスッキリのあとに

 なんやかんやあって、俺はオーサの家に招かれていた。

 ここに来るのは二度目か。まったく変わっていない。まぁ、二年くらいじゃそうそう模様替えもしないか。


「まぁ、楽にするでやんす」


 テーブルについた俺は、エルフから飲み物を出してもらえた。

 オーサは族長の椅子の上で大股を開いている。オーサは見た目だけでいうと幼女なので、さすがに興奮することはないが、目のやり場に困るのは確かである。


「まずは、あのキマイラを駆除してくれたことに礼を言うでやんす。やつは聖域の森を荒らして回っていて、ほとほと困っていたのでやんすよ」


「そりゃよかった。力になれてなによりだ」


 コップに入った謎の飲み物を飲んでみる。むむ。これは、どことなく青汁っぽい。おいしくはない。


「ところで、なぜあんなところにいたでやんすか? 聖域の森は結界で閉ざされていて、我々エルフしか入ることができないでやんすよ」


「あー。たぶん、空から入ったからかな?」


「空から、でやんすか?」


「うん」


 俺は事の経緯を説明する。

 上空に浮かぶコッホ城塞から降りてきたことも含めて。というかそれしかない。


「城塞だと? そんなもの、どこにあるナリか」


 部屋の隅で黙って聞いていた副長が声をあげた。


「どこって……あ、そっか。地上からは見えないんだっけ」


「胡散臭いことを言うナリな。族長、こいつはやっぱり怪しい奴ナリよ」


 副長は険しい顔だ。


「これ。いい加減その人間嫌いを治すでやんす。男を失った今、人間を受け入れることも必要だと、何度も話したでやんす」


「……わかっているナリ」


 なんか前にもこんなことがあったような。


「キマイラを退治してくれたことは感謝しているナリ。しかし、お前の素性が分からない以上、こちらも黙って解放するわけにはいかないナリよ」


「わかるぜ。エリクサーを狙う輩が多かったりするんだろ?」


「その通りナリ」


「うーん。しかし素性って言ってもな。証明できるようなものはないぞ。名前は、ロートス・アルバレスってんだけど」


 正直、ちょっと期待していた。

 名乗れば、俺のことを思い出してくれるんじゃないかってな。

 しかし、そんなことはありえない。

 オーサも副長も、俺の名を聞いても顔色一つ変えなかった。


「名前じゃ何もわからないナリ」


 そりゃそうだよな。

 エストとの繋がりを断たれた俺は、この世界での痕跡をすべて消し去られている。

 ゼロからのスタートってわけだ。

 悲しいなぁ。


「だったら、信じてもらうしかないな。ここにいたらまずいってんなら、急いで森を出るけども」


「いや、その必要はないでやんす。というか、そうされると困るでやんすよ」


「そうなのか?」


「この里に人間の男が来るのは二年ぶりでやんす。だからちょっと頼みがあるでやんすよ」


「まぁ、俺にできることなら協力させてもらうけど」


 忘れているかもしれないが、エルフ達には恩があるしな。


「助かるでやんす。頼みというのは、うちのエルフ達を何人か孕ませて欲しいのでやんすよ」


「待てよ」


 おいおい。いつからエルフはジェルド族になったんだ?

 ここでも種馬扱いかよ。


「我々エルフは、絶滅の一途を辿っているでやんす。今すぐというわけじゃないでやんすが、このままじゃいずれ種は消滅するでやんすよ。だから、他種族の血を入れてでも子孫を残さないといけないのでやんす」


「そんなこと言われてもな。俺も急いでるし」


「急ぐ?」


「ああ。行くところがあるんだよ」


「ここから遠いでやんすか?」


「まぁ。それなりに」


「じゃあこうするでやんす。うちの若いエルフ達に子を仕込んでくれたら、とびきりの馬を譲るでやんすよ」


 なぬ。それは魅力的な提案だぞ。ちょうど移動手段をどうしたものかと思っていたところだ。


「ロートスとやら、頼むでやんすよ。この通り」


 オーサは頭を下げる。

 族長が頭を下げると言うのは、相当なことだろう。


 よし。


「そういうことなら喜んで協力させてもらうぜっ!」


 あくまで人助けだからな。

 しょうがないから、渋々ながら孕まさせて頂くとしよう。


 心底、不承不承だけどな。

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