やっぱりそうなるよね
「サラ。お前はよくやってくれた。ランチ代を渡すから、『てぇてぇ亭』のスペシャルランチ、食ってこい」
「ご主人様は、一緒に来られないんですか……?」
「俺はいい。『ノーハングリー』なんか使わなくても、腹減ってないしな」
とにかく一人になりたかった。そっとしておいてほしかった。
それをサラも察したのだろう。
「わかりました。ボク、一人で行ってきますね。ありがとうございます」
見るからに無理矢理作った笑顔だった。俺からお金を受け取ったサラは、俺を気遣うような目を向けてから、足早に『てぇてぇ亭』に向かっていった。
「はぁ……なにやってんだろうな、俺は」
この世界に転生してからというもの、俺は極力目立たず生きてきた。その為に身命を惜しまなかった。
だが、魔法学園に入学することになってすぐこの有様だ。ここに入れた両親に沸々と怒りが湧いてくる。
俺はあてもなくふらふらと歩きまわる。その内、学園内にある小高い丘の上に辿り着いていた。丘の上には大きなガゼボ、いわゆる西洋風の東屋が設置されており、俺はその中のベンチに腰を下ろした。
溜息。
「くそが」
誰もいないガゼボに、俺の暗い呟きだけがあった。
懐が振動する。
「お?」
スライムが動いているようだ。そういえばいたな、こいつ。
俺はビンを取り出し、スライムを外に出した。
「よう。どうだ、調子は」
スライムは俺の足元でぷるぷると震えている。
「俺はダメダメだ。あんなに目立っちまって」
再び漏れる溜息。
すると、スライムから二本の触手が伸び、俺の両頬を優しく撫でた。
「はは。なんだよ。慰めてくれるのか?」
スライムは肯定するように一際大きく揺れた。
「モンスターに慰められるたぁ、情けねぇな。俺ってやつは」
泣きそうになる。けどそれだけは我慢だ。男は泣いちゃいけないのだ。
俺は項垂れる。目を閉じ、努めて頭を空っぽにする。
だから俺は、目の前でスライムが形を変えていることにすぐ気付けなかった。
「マスター」
その声は誰のものか。
「なにがあっても、人があなたに何を言おうと、あなたが自分をどう思おうと」
優しい少女の声は、俺の耳に溶けるように甘く響く。
「わたくしは、最期の時までマスターの味方でおりますわ」
驚いて目を開こうとした時、俺はそっと抱きしめられた。
滑らかな肌は陶磁器のようで、華奢でありながら女性らしい柔らかさを備えた肉付きは、まさに天使の抱擁であった。
なんだこれは。一体何が起こった。
俺を抱きしめているのは、透き通るような空色の髪を靡かせるとんでもない美少女であった。
なにより驚いたのは、彼女は一糸まとわぬ姿、つまり全裸だったのである。




