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人間とはなんぞや

「生命の女神エンディオーネの記述は、あまり多くないのです。古代人とノームとの戦いの折、彼女が何を考え、何をしていたか。ほとんどわかっていません」


「ほとんどってことは、ちょっとはわかってるのか?」


「一つだけ確かなことがあります。それは、エンディオーネは一度この世界から去ってしまったということ」


「なに?」


「彼女はすべての生命の母です。どちらに味方しても、我が子を殺すことになる。それが耐えられなかったのでしょう。女神さえ介入する戦いを忌避し、この世界から逃げ出した。僅かな記述に、そう記されています」


「あいつが……意外だな……」


 俺の知っているエンディオーネとは、まったくイメージが違う。死神の鎌を振るって、ガンガン命を奪う感じだったけどな。

 永い時を経て、あいつも何か考えが変わったのかもしれない。


 永い時といえば。


「それってさ、どれくらい前の話なんだ?」


「定かではありませんが、おそらく四千年ほど前の話かと」


「かなり前だな……」


 そのあたりで、ノームは人間に取って替わったわけか。

 となると人間という名称は、もっとも繁栄した種族の称号なのかもしれないな。


「さぁ、そろそろ山の中腹です。あーしがご案内できるのはここまで」


 前方に見えるのは、見上げるほどの塀。いや、塀というよりは城壁といった方がふさわしい気がする。こんなものが山の中にあるなんてな。


「古代人の遺跡か」


「そうです」


 固く閉ざされた城門に、アンが手をかざす。


「万象の女神マーテリアの眷属。アンヘル・カイドの名において、深淵への導きを求む」


 すると、そこに光が生まれ、いくつもの線となって模様を描いていく。

 ファルトゥールの塔で見た現象に似ている。ただ、色彩が違った。

 今目の前で輝くのは、翡翠のような緑色の光だ。

 光の筋に満たされた城門が、ゆっくりと開いていく。


「ここから先は、時代の変遷に紛れ秘匿された聖域です」


「アン。あんたは一体、何者なんだ」


「聡明なロートス様のことです。すでにお察しなのでは?」


 なんだその言い方は。

 やれやれだな。


「古代人の末裔だろ。だけど、神族と名乗っていた連中とはどこか違うぜ」


「神族とは、エストを生み出した勢力が名乗り始めたものですから」


「古代人も一枚岩じゃなかったって?」


「無論です。女神マーテリアに仕えるあーし達は、エストを生み出すことをよしとしませんでした」


 なかなか難しい問題だな。

 エストを創り出せと命じたのはマーテリア本人だ。だから、当時のエスト反対派も口を閉ざさないといけなかったんだろう。


「一つ訂正です。あーしは古代人の末裔ではありません」


「そうなのか?」


「末裔ではなく、生き残りと申し上げた方が正しいでしょう。当時のあーしは、何も知らぬただの小娘でしたが」


「はは、なるほど」


 そいつは驚きだ。


「ですから、あーしの知ることは、母から聞いた話と、遺跡の石碑に記されたことだけです。当時の政治的な話を実体験としてお話しできるわけではありません」


「なら、あんたの母さんならそれができるのか?」


「おそらく。ですが語りたがらないでしょう。よほどのことがない限り」


 よほどのことってどこまでなんだろうな。

 まぁいい。


「実際のところ、俺はこの先で何をすればいい? 今の話を聞いちまったら、モンスター大量発生の原因を探るだけで済むとは思えないぜ」


「よくお聞きください。ロートス様」


 次にアンは、衝撃の事実を口にする。

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