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この戦いが終わったら

「……神を滅ぼすつもりか?」


「ああ」


「何の為に」


「人の自由を取り戻すためさ」


 その一言で、サニーには伝わったようだった。


「なるほど。勝てないわけだ。俺とお前じゃ、背負っているものが違うんだな」


 サニーは自嘲気味に笑いを漏らす。


「俺はただ自分の強さだけを求めていた。それが周りの冒険者たちの希望になると信じてな。だがロートス。お前は、世界の人類の為に戦っている。その歳で、大したもんだ」


 ま、転生者だしな。


「この世界で生きる意味ってのに気付いちまっただけだよ」


「ふむ」


 包帯に覆われた手で顎を押さえるサニー。


「俺にとって生きる意味というのは、強くなることだった。自分より優れたスキルを持つ相手を超えること。それだけを求めていた。だが今の俺を見れば、その程度の目的ではだめだったということなのか」


「そんなことはないだろうよ。サニーがその目標を達成すれば、後に続く奴らも出てくるだろう。スキルに恵まれない奴らに希望を与えるってそういうことだろ? あんたみたいになりたいってさ。一緒に宿場町に来てたのは、そういう奴らじゃないのか」


「まぁ……な」


「人にはそれぞれのやるべきことがある。俺には俺の。サニーにはサニーのな。そこに良いも悪いもないさ。大切なのは、自分のやるべきことにどれだけ真剣になれるかってことだと思うぜ」


 俺ってまじでいいこと言うよな。

 やっぱりこの世界にきて色々経験することで俺も人間として成長してるんだわ。

 完全にそういうことだ。

 そうじゃないと俺がこんな深いことを言える理由が分からんもん。

 転生前の現代日本で、こういうことを考えられる度量があれば、また前世の人生も変わっていたのかもしれないな。

 まぁ、今更だ。


「ロートス。お前が神を滅ぼすというのなら、俺もその手伝いをしよう。いや、させてくれ」


「なんだって?」


「俺もお前の考えに同意する。たぶん、この国の冒険者達も同じ思いだろう」


「わかってると思うけど、エストが消えたらスキルは消滅する。そうなれば、世界中で混乱が巻き起こるんだぞ」


「それこそ俺達の望む時代さ。変革の際には必ず大きな嵐が訪れるものだ」


「そうか」


 俺は頷く。


「わかってるならいい。手伝ってくれるってんなら、心強いしな」


「任せてくれ。冒険者達には話をつけておく。この国の冒険者は、全員がお前の味方になるだろう」


 最高やな。


「あ、そうだ」


 俺はサニーに手をかざす。


「ファーストエイド」


 俺が医療魔法を唱えると、サニーの傷が一瞬で完治する。

 最初から負傷なんかしていなかったかのように。


「これは……治った、のか? 誰も治せなかったのに」


「俺の魔法には〈妙なる祈り〉のパワーが乗ってる。俺が心からできると信じられることなら、不可能はないのさ」


「たまげたな……つまりそれが、人の力だということか」


「そういうこった」


 さぁ。

 そろそろ話は終わりだ。

 オルタンシアがサニーに対して人見知りを発動しているしな。


「俺達はこれから神の山に向かう。今回は調査するだけだけどな。ギルド長によろしく言っといてくれ」


「わかった」


 俺はオルタンシアの手を引き、サニーに背を向ける。


「ロートス」


「ん?」


「気をつけろ。ルクレツィア・カイドはくせ者だ。神の山にお前を差し向けた理由が、ただの調査だとは思えない」


「ああ。わかってる。用心するさ」


 何があっても、なんとかなるだろうさ。

 これまでも、これからも。

 そうに違いない。


「無事に帰ってきたら、一杯おごらせてくれ、サニー」


「ああ。期待して待っている」


 ひらひらと手を振り、俺は礼拝所を後にした。

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