現地妻
飯をたらふく食べた後、俺達は礼拝所に向かうことになった。
エトワールの街を二人で歩いていく。
人ごみの中が苦手なのか、オルタンシアはずっと俺の手を握っている。彼女のひんやりとした手の感触はなんとも名状しがたい素晴らしさがある。
「あの、種馬さま」
「ん?」
「こんな時に聞くような事じゃないかもしれませんけど……」
「なんだよ。言ってみろ」
おずおずと言い出したオルタンシアに、なんとなく笑ってしまう。いまさら遠慮するような仲でもあるまい。
こういう言い方をするとすこしやらしいかもしれないが、既にやりまくった後なんだし。
「種馬さまがこの国に来たのって、王女さまに会うためなんですよね?」
「うん」
「もしかしてなんですけど……王女さまも、種馬さまのハーレムの一員になるんですか?」
「あー……そいつは分からないな」
セレンの意思もあるだろう。
そもそも俺がセレンを探しに来たのは、あいつが鍵の一人かもしれないという憶測があったからだ。
「でも、仮にセレンが鍵だった場合、あいつは俺のことを好きってことになるのか? これまでの例に従うなら、そういうことになるよなぁ」
「じゃあ、やっぱり」
「可能性の話に過ぎないけどな」
オルタンシアは不安そうに目を伏せた。
「あの、もしそうなったら……自分は、どうなるんでしょう?」
「ん? どうなるってのは?」
「用なしになって、捨てられたり……とか」
「あるわけないだろそんなの」
何言ってんだこいつは。
「オルたそは俺と一緒にいるんだよ。やっちまったからには責任は取るさ」
「種馬さま……」
「でも、やっぱり自分の国にいたいってんなら、無理に引き止めたりはしないけどな」
「……そうですね。自分は、住み慣れたマッサ・ニャラブから離れたくありません。ですから、なんというか……現地妻として置いてもらえると、嬉しいです」
「現地妻」
そんな言葉を聞く日が来ようとは夢にも思わなかったな。
「まぁ、オルたそがそう言うなら、それもいいかもな」
定期的に会いに行けばいいんだし。
正直、そっちの方がエレノアとかとの修羅場とかもなくて助かりそうだわ。
嬉しそうに微笑むオルタンシアの手を握り、俺は礼拝所へと足を運ぶ。
礼拝所は巨大な建物だった。
観光客は減ったと聞いたが、それでもたくさんの人で賑わっている。老若男女に関わらず、すごい人だかりだ。
「ここを上れば、神の山が見えるってわけだな。行こう、オルたそ」
「はい」
人の波に乗り、俺達は最上階へと向かった。




