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扉はどこだ?

 到着して間もないのに、王都アヴェントラを後にする。

 俺はラルスが御者をする馬車に揺られて、色々と考え込んでいた。


「ごめんな、オルたそ。なんかメチャクチャなことになっちまって」


「いえ……」


 ギルドでは影の薄かったオルタンシアは、俺の隣で膝に手を置いている。


「やっぱり自分は、来ない方がよかったんじゃないでしょうか。何もできないならまだしも、種馬さまの足手まといになってしまいます」


「足手まといなんてことないけど」


 危険な目に遭わせたくはないよなぁ。


「安心してくれ。オルたそは俺の傍にいるだけでいい。んで、俺がすごいことをやったらすごいすごいって褒めてくれ」


「褒める、ですか?」


「ああ。それだけでモチベーション爆上がりだ。男ってのはかわいい女の子に褒められるために生まれてきたような節があるからな」


「そうなんですか? でしたら……あの、がんばります」


「そう気負わなくても。種付けをねだるよりはるかに簡単だろ」


 オルタンシアは恥ずかしそうに俯いてしまった。

 それからしばらく、馬車の中は静かになる。

 沈黙を破ったのはハドソンだった。


「神の山。俺達も行くのは初めてだ」


 なにやら深刻そうな声色だった。


「そうねぇ。近づかないようにしてたものねぇ」


 色っぽい溜息の混じるミラーラの声。こっちもシリアスな雰囲気だ。

 神の山ね。

 現代日本では、大体の山には神様がいると信じられているみたいだけど、こっちでも同じようなもんなのかな。霊峰的な。


「俺はこの国のことはまったくわからないんだけどさ。神の山ってのは、最高神エストが住んでるってことでいいんだよな?」


「住んでるって言われてる、よぉ?」


「大昔に最高神エストがこの世界に降臨した地。それが神の山だ。だから、この辺は聖地ってことで不可侵の土地だった。今のグランオーリス王が政治的にうまいことやったみたいで、神の山を国土にしちまったけどな」


 政治的に上手くやって手に入れられるものなのかよ。

 まぁ、結局は人間が決めることだもんな。国境とか領土とかって。

 ハドソンが筋肉モリモリの腕を組む。


「聞くところによると、神の山に立ち入った者はエストの怒りに触れるらしいぜ。昔から多くの人間が神を求めて山を登ったらしいが、ほとんどが帰ってこなかったって話だ」


「帰ってきた人もいるのか?」


「その代表が、グランオーリス王と王妃よぉ?」


 そうなのか。


「もともと冒険者だった二人は、神の山でエストに認められ、超絶神スキルを与えられたのよぉ。その力で、王国から独立して建国したってわけなのぉ」


「へぇ」


 神に力を貰って国を興す。

 なんというか、英雄譚としてはありがちな話だ。それが事実なのか、それともフィクションなのか。


「建国の伝説ってのは王室の権威を強める為に大袈裟に語られるものだからなぁ。ま、鵜呑みにしちゃいけねぇさ」


 ハドソンが首を捻ってそんなことを言う。


 ふむ。

 エストを倒すための〈八つの鍵〉。

 それを今探している最中なのだが、鍵を揃えるだけじゃ意味がないだろう。開く扉が必要だ。

 おそらくそれが、神の山にあるのだと思う。


 俺がグランオーリスまでやってきて、今こうして神の山に向かっていることは、決して偶然じゃない。

 世界の運命が変化しているからこそ起きた必然だろうな。

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