夢ってなんかロマンある
エンディオーネは、幼げな唇に指をあててくすりと笑う。
「いまロートスくんの目の前にいるこのエンディオーネちゃんはー、本物なのかなー? それともキミが夢で見ているだけの幻なのかなー?」
「……なに?」
「もしかしたらー、現実のエンディオーネちゃんは優れた人格もとい神格者かもしれないよー? だって考えてもみてよ。今エンディオーネちゃんは魔法学園の地下でお姉ちゃんと戦ってるはずでしょー?」
「黙ってろ。お前のことは俺の独断と偏見で評価する」
「ふーん。まぁそれでもいいけどー」
そう言うとエンディオーネは高度を上昇させ、空へと消えていった。
追いかける気もない。
やっぱりあいつは信用できないな。もとから利用し合うという話だったけど、それもちょっと考え直さないといけないらしい。
となると、最終的にはエストとファルトゥールだけじゃなく、エンディオーネも敵に回さないといけないのか。
神をみなごろしにする。
物騒な言葉面だ。だが俺にしかできないことだろう。
やるしかないな。
もう一度確認するんだ。俺は一体なんの為に戦うのかを。
異世界で出会ったみんなが、運命に縛られることなく自分自身で道を切り開く人生を送れるように。
そして、みんなと一緒に憧れのスローライフを過ごすために。
よし。
俺はふよふよと浮く自分の体を動かし、横断歩道の上に横たわる女の子のもとに向かう。
周りには彼女を助けようとする人達もいるが、残念ながらもう息はないようだ。
中学生くらいだろうか。長い黒髪の儚げな美少女だ。
出血はない。まさか死んでいるとは思わないパッと見は無傷の体だった。
「俺が助けようとした子か」
結局助けられなかったけどな。
悲しい話だ。
「ひかりちゃんか……」
俺の前世の知り合いにそんな名前の子はいなかった。
見知らぬ女の子を助けるために我が身を犠牲にする度量が俺にあったとはな。
まぁいい。
これは夢だ。
ここで見聞きしたことが事実とは限らない。
けど、もしかしたらこの夢がただの明晰夢ではなく、正夢とか予知夢みたいに、なんらかの不思議なものかもしれない。
それを確かめる方法を思いついた。直感なんだけど、このひかりちゃんって子、たぶんエレノアの前世なんじゃないのか?
なんだかそんな気がする。
同じタイミングで転生しているし、同じタイミングで死んでたとしてもおかしくない。
現代日本と異世界の時間の流れが同じとは限らないから、わかんないけどな。
まあ、エレノアに聞けばわかる話だ。
別に違っててもいいしな。
目が覚めたら、念話灯で通話してみよう。
それがいいと思うよ。本当に。




