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朝日が黄色い

 朝が来た。

 結局、元の世界のことが頭から離れず一睡もできなかった。睡魔より強力なものがこの世に存在したとは、俺も心底驚いている。


「やぁおはようさん! 昨夜はお楽しみだったかい?」


 受付でおばさんがいやらしい笑顔を浮かべているが、とてもそのノリについていける気分じゃない。自分が今どんな表情をしているのかも分からなかった。


「うーむ。こりゃ前途多難だねぇ」


 おばさんは怪訝そうに俺とオルタンシアを交互に見ていた。


「あの……お代は軍につけておいてください」


「はいよ。きっちり請求しておくさね」


 オルタンシアはぺこりと頭を下げると、心配そうに俺を見上げ、それから宿を出た。

 俺は半ば無意識に彼女の背中を追った。


 外は明るい。強烈な日差しが降り注いでいる。


「うわ~。なんだこれ」


「これが、マッサ・ニャラブの大熱と呼ばれる日照りです。ここから特に日差しが強くなってきますから……あの、昨日お渡ししたマントを脱がないようにしてください」


「こんなに暑いのにマントを着るのか?」


「直射日光から……えっと、肌を守るためです。直に浴びると火傷、しますから」


「まじか」


 温暖で暮らしやすい国境付近からそんなに離れていないはずなのに、渓谷を越えただけでこうも気候が変わるものなのか。


「谷の出口は、すぐそこです。行きましょう」


「おう」


 我ながら元気のない返事だった。

 一晩中思い悩んだせいで、頭が回っていないし、体力も消耗したままだ。なにより精神力が枯れ果てている。

 だが、足を止めるわけにはいかない。今はとにかく足を動かそう。


「種馬さま」


「ん」


「その……自分は、なにかいけないことを、聞いてしまったのでしょうか」


「気にするな。俺の問題だ」


 出会ったばかりの女の子にどうこうできる話じゃない。

 狭い渓谷から脱出すると、目の前には広大な砂漠が広がっていた。


「おお」


 思わず声が漏れる。


「これが砂漠か」


「砂漠は、初めてですか?」


「実際に見るのはな」


 テレビとかネットとかでは見たことがある。でも、自分の目で見るのとでは迫力がまったく違うな。見渡す限り砂しかない。

 黄色い砂と青い空のツートンが、俺の視界のすべてだった。

 そこに、後ろ手を組んだオルタンシアの背中が入り込んでくる。


「ここを渡るんだな。道しるべとか何もないけど、どうやって進むんだ?」


「大丈夫です。砂漠は……自分達ジェルド族の庭みたいなものですから」


 方角とか分からなくなりそうだけどな。

 もしかしたらジェルド族にはスキルとは別に特殊な能力があるのかもしれない。砂漠で迷わないなんてことがあるのか? それとも俺に砂漠の知識がないだけなのか。

 やっぱり案内人を連れてきて正解だった。


「じゃあ、行くか。暑いけど」


「じきに慣れると、思います」


 その時だ。

 ズボンのポケットが振動した。

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