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気付き

「あの……人が本来持つ力なら、自分にも使えるんでしょうか?」


「それは難しいみたいだ。エストのせいでな。たぶんだけど、みんなが使えない分、俺が自由に使えてるって感じなんだと思う」


「どうして、種馬さまだけそれが使えるのですか?」


「もともとこの世界の住人じゃないからだよ。だからエストの縛りを受けてない。信じられないかもしれないけど、俺は異世界からやってきたんだ。こことは違う。歩いていけないとても遠い場所。俺は異世界人っていうか、転生者なんだ」


 異世界人とか転生者っていう肩書は社会では何の意味もなさないが、かっこいいから言っておきたい。

 それから、オルタンシアはしばらく黙り込んでしまった。

 眠ったのかとも思ったが、そうではないらしい。金色の瞳はぱっちりと開いている。


「寂しく、ありませんか?」


「え?」


「自分は、故郷を離れて王国に行くなんて……イヤでした。生まれ育った街を出たくありませんでしたし、宥和政策だって名目でしたけど、もし戦いになったらどうしようって、恐かったです」


 まぁ。そりゃそうか。

 見知らぬ土地に行くのは不安だよな。戦争だったら尚更だ。オルタンシアは十代前半。何らおかしいことじゃない。


「だから……種馬さまが自分を指名して下さった時は、心底ほっとしました。自分の国に、帰れるって」


 指名したというかなんというか。あれはどうなんだろうな。まぁ指名みたいなもんか。


「ですから、種馬さまはどうなのかなって」


「俺?」


「世界を飛び越えて遠いところにやってきて……寂しくないのかなって」


 俺の胸の中で、オルタンシアが上目遣いをよこした。

 ふむ。


 正直な話。今までそれについては考えないようにしていた。

 もとの世界で死んだことは覆しようのない事実だし、死んでしまったものは仕方ないから異世界に来ることを望んだんだ。

 どこまでがエンディオーネの陰謀だったのかは定かではないが、紛れもなく俺の意思で転生したことは間違いない。


「寂しくないと言ったら嘘だな。親もいたし、友達もいた。好きな女もいたよ。けどさ、俺は向こうの世界で死んじまったから」


「戻りたいって……思わないのですか?」


「そりゃちょっとは、思うけど……あ?」


 おい待て。

 待て待て。ちょっと待て。

 うそだろ。


「種馬さま……?」


 どうして今までそれに思い至らなかったんだ。

 〈妙なる祈り〉は理屈の上じゃなんでもできる。

 それなら、元の世界に戻ることだって、俺が信じることさえできれば、可能ってことじゃないか。


 バカか俺は。なんで今までそれを考えなかった。

 元の世界。

 そうだよ。


 現代日本に、戻れちまうじゃねぇか。この野郎。

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