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パンチするだけ

 俺の靴底が、大地を叩く。

 すると、傍にへたり込んでいたオルタンシアが、上昇気流に煽られたようにふわりと宙に放り出された。


「きゃあっ!」


「ほんの少しの辛抱だ」


 彼女の手から離れた松明が、俺とジャバウォックの間に落ちた。

 それが合図だった。

 耳をつんざく咆哮と共に、ふとましい腕を振り上げ、鋭い爪の一撃を放ってくる。


「おっと」


 一歩、後ろに下がる。

 たなびいたマントの裾がほんの少し切り裂かれ、松明の炎に吸い込まれていく。


「でかい図体の割にはそこそこ速いじゃねぇか」


 空振りしたジャバウォックは、切り返しの爪撃を放つべくもう一方の腕を振りかぶる。

 だが、それは俺には届かない。


「ほい」


 なんとなく繰り出した俺の拳が、ジャバウォックの上半身を一撃にして消滅させた。

 肉片すら残らない。現実離れした衝撃が、血液すらも消し去った。すべては目に見えないほどの塵となって世界に還っている。

 下半身だけになったジャバウォックは、倒れることもなくただそこに立ち続けていた。


 俺は振り返る。

 残るジャバウォック達は、もはや微動だにしていない。


「今のやつ。当ててないからな」


 拳と手のひらを近づける。


「パンチを打った圧力だけでこんな風になっちまった。いや、えらく脆いよなぁ」


 言語を解しているのかはわからない。だが、通じる部分もあるだろう。

 奴らはわかったはずだ。次、一歩でも前にでれば、この死骸と同じ道を辿ると。


 基本的に、モンスターは本能で生きている。確実な死を前にして敵討ちもクソもない。ただ生き残ることだけを考える。

 俺を食えないと理解した時点で、答えは出ているはずだ。


「おいおい。逃げないのか?」


 だが、奴らは動かない。戦意は既に喪失している。だが、逃げようともしない。


「こんな時どうすればいいか分からないってか? 今まで天敵がいなかったせいかな。だったらいいや」


 宙に放り上げられていたオルタンシアがゆっくりと、ふわふわしながら落ちてくる。


「わっ、わっ、わっ……!」


 彼女を抱きとめ、お姫様抱っこの形にもっていった。

 そして俺は、歩き出す。


「俺達が見えなくなるまで、そうやって固まってな」


 松明に照らされたジャバウォックの群れに背を向け、先に進む。


「た、種馬さま……」


「おう」


「さ、さっきのは……どうして、ジャバウォックを、一発なんて」


「はっ」


 笑えるぜ。


「渓谷の主? エンペラードラゴンに匹敵? それがどうしたってんだ。これから世界を牛耳る神に挑もうってのに、モンスターごときに手こずってられるかよ」


 決まったな。

 今の俺、めっちゃかっこええやん。

 これは完全に、オルタンシアの心を鷲掴みにしたやつだろ。間違いない。

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