恐るべきランチタイム
辿り着いたのは学園内にある食堂『てぇてぇ亭』だ。
入学のしおりに載っていた学食の中でも最もリーズナブルな店である。
大盛りランチが五百エーンとかなり安い。やっぱり安さは正義だな。
「ご主人様。ボク、これが食べたいです」
席についたサラが指さしたメニューは、本日のスペシャルランチ。二種類の肉料理と分厚いパンをメインに、スープとサラダが付き、おまけにデザートまでついてくるフルセットだ。
価格は千二百エーン。
「お前さぁ。段々遠慮がなくなってきたな」
この前まではまともなご飯を食べさせてやるだけで泣いて喜んでいたのに、今ではこの店で一番高いランチを所望してくる始末。
「だめですか……?」
「いいよ」
なんだかんだ言ってサラはかわいいし。かわいい女の子にいいところを見せたいのは男の性ってものだろう。
俺は普通のランチで節約だ。
若いウェイトレスに注文を済ますと、置かれた水を一気飲みする。
「そういや、スライムって何食わせたらいいんだ? 腹が減ってるって言ってたけど」
「そうですね。スライムは雑食なので食べられるものならなんでも食べますよ」
「こいつにもなんか食わせてやるか」
俺は懐からビンを取り出す。その中ではスライムが大人しくしていた。
「結局のところ。こいつ、どうしようか」
とりあえず連れてきたはいいものの、正直持て余す。俺にはテイムのスキルも知識すらもないんだぞ。
「その子はご主人様に懐いていますから、そのままでいいと思いますよ。ペット感覚で連れてたらいいじゃないですか」
「ペットねぇ」
人を喰うようなモンスターをペットって。俺の品性が疑われるわ。
「まぁ、タイミングを見てどっかに放流するか」
俺が言うと、ビンの中のスライムが振動した。
「お? イヤなのか?」
「そりゃそうですよ。ボクだってご主人様に捨てるなんて言われたら、死んじゃいそうなくらい傷付きますし、実際死んじゃいますよ」
「んな大袈裟な」
「大袈裟じゃないですっ」
力を込めて言うサラに、俺は少し驚いた。
うーむ。たしかに捨てるのはかわいそうだな。
まぁ、スキルがなくてもテイムはテイムだし、これは俺の実力の結果ということで納得しよう。
「お待たせしました」
やがて運ばれてきた料理を舌鼓を打つ俺達であった。
これは常連になるしかないな。
「ん?」
俺は離れた席にとある人物を見つけた。
「アデライト先生だ」
「え?」
サラも俺の目線を追う。
先生は何とも言えない幸せそうな表情で、特大のパフェを口に運んでいた。
新入生が死にそうな目に遭って試験をこなしているというのに、試験官である自分がのんきにスイーツなんか喰いやがって。許せぬ。
あの人のせいで俺は全部のダンジョンを回るはめになるわ、のじゃロリに手柄を押し付けられるわ、変なスライムになつかれるわ、踏んだり蹴ったりだ。
文句の一つでも言いに行きたいところだが、それは間違いなく目立つ行為だ。俺はじっと耐えるしかなかった。
やがて食べ終えた俺達は、会計を済ませて『てぇてぇ亭』を後にする。
「さっさと洞窟のメダルを回収して、試験を終わらせるぞ。そろそろダレてきたからな」
「ご主人様。油断だけはしないようにお願いしますね」
「わかってる。行くぞ」
俺達は颯爽と、放浪の洞窟へと向かった。




