大逆転
勝利を確信した、次の瞬間。
俺の胸から、一本の棘が突き出した。
「は?」
心臓を突き破った刃は鮮血にまみれている。
傷口から漏れ出る夥しい量の血液。
(はは。限界が来たようだね)
力が抜ける。膝をついてしまう。
(別にこの光が効かないわけじゃないんだね。ただ、効果が表れるまで人より時間がかかるだけ。その理由は定かではないけど)
ベラベラとうるさい奴だ。頭に響く。
くそ。
とりあえず動かないと。このまま光を浴び続けるわけにはいかない。
この光の本質が分からない以上、無効化することもできないんだ。
なんとか立ち上がり、本丸へと向かう。建物の中に入っちまえばこっちのもんだ。
よたよたと歩いて進みながらも、俺の全身から棘が生えてくる。勢いよく肉を突き破り、真っ赤な血を散らせて。
マジでわけわかんねぇ。なんなんだよこの現象は。
(頑張るねぇ……そんなにこのドルイドの小娘が大切かい?)
うるせぇな。
(キミの周りには魅力的な女性がたくさんいるじゃないか。この娘一人にそこまで執着する理由があるのかい? 理解に苦しむね)
黙れよ。
「いい女がたくさんいるからってなんだってんだ。サラはたった一人しかいねぇだろうが」
(呆れた……強欲な男だねぇ)
「そうじゃねぇ!」
いい女を侍らせたいとか、ハーレムを作りたいとか、そんなレベルの話をしてんじゃねぇんだよ。
「見ろよこの血。俺みたいな奴にもちゃんとあったかい血が流れてる。だったら全員そうだろうが。アイテムや道具みたいに替えの利くもんじゃねぇ。一人一人血の通った、かけがえのない人なんだよ……!」
足を引きずり、やっとの思いで本丸の前にたどり着く。
「誰か一人でも欠けちゃあよ……俺がこの世界にきた意味がなくなっちまうだろうが!」
息が上がっている。
脚に力が入らない。
気張ってみても、もう限界だ。
この光によって与えられた傷には、俺の『妙なる祈り』も及ばない。治すことはできない。
女神ファルトゥールの力が、俺のチートを上回っているということだろう。
(実に人間らしい考えだ)
愉快そうな笑い声が響く。
(だけどね。その思考じゃあ神には勝てない。たったひとつの命に振り回され、大局を見失うような者に、世界は統べられないさ)
クソが。
(これは非情でもなんでもない。むしろ情に溢れている。たかが人間に、神の慈悲が理解できるとも思えないけどね)
それらしい口をききやがる。
(案外、人の運命を縛っているのは偽神エストでも母なるファルトゥールでもなく、人間自身なのかもしれないね)
意識が、遠のいていく。
(さようならだ。アルバレスの御子。安らかに眠るといい。この城塞が、キミの墓標になるだろう)
その言葉を最後に、俺の意識はぷっつりと途絶えた。




