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無数の死

 結果から言うと、コッホ城塞に侵入することはできた。

 だが、それがよかったかと聞かれると素直には頷けない。


 コッホ城塞の内部は、ひどい有様だった。

 そこかしこに死体が転がっている。死屍累々という言葉がチンケに思えてしまうほど、どこを見ても死体の山が積み重なっている。歩く隙間もないほどだ。


「なにこれ……!」


 エレノアが口元を押さえて目を逸らす。逸らした先にも死体の山。

 紛うことなき地獄絵図だ。


「機関の構成員達と、実験体か? それにしても多すぎる……どういうことだ。一体何が起こってやがる……!」


 予想だにしていなかった。

 敵が準備万端で待ち構えていることは予想できても、すでに壊滅状態だなんて誰が想像できる? 謎すぎるぞ、これは。


「うぅ……」


 うめき声が聞こえる。

 生存者がいるのか。


 俺は死体の山をかき分け、うめき声の発生源を辿る。

 死体の下から出てきたのは、一人の男だった。


「おいあんた。大丈夫か」


「だ、大丈夫じゃないんどいや……助けんかいや、ワレ」


 こいつの態度は気にくわないが、そんなことを言っている場合じゃない。

 俺はファーストエイドを使用する。

 一瞬にして全快する男。


「お……なんじゃいこりゃあ……! あたかも慈母の抱擁じゃわい」


 感無量といった風に言うが、俺は慈母じゃないぜ。


「何があった。どうやったらこんな状況になるんだ」


「知らんわいや。何が何だかわからんのじゃいや」


「そんなわけないでしょう。ちゃんと答えなさいよ」


 エレノアが眉を顰めて言うが、男は落ち込んだ表情で唇を噛む。


「ああ……!」


 男が急に声を上げる。

 その視線の先、コッホ城塞の頂上に、琥珀色の光が何度も閃いていた。


「あの光じゃい……! あの光が全部壊してもうたんじゃい……!」


 光っている場所は、たしかマシなんとか五世がいた場所だ。

 臨天の間とかいったか。


「あれって……」


「何かわかるか? エレノア」


「ええ……あれは強い魔力特有の発光現象よ。だけど、あのレベルで輝いているとなると、相当大きなエネルギーだわ。いいえ、大きいだけじゃない。琥珀色の光は、魔力の濃度が異様に高い時だけに生まれるものよ。それに、あの魔力の波動には覚えがあるわ」


 おい。それってまさか。


「サラって子の魔力、だと思う。あれがファルトゥールから簒奪したっていうドルイドの魔力なのね」


 なんてこった。

 もしそれが本当なら、サラはすでに目覚めているということになる。

 エンディオーネがファルトゥールを抑えてくれているうちはいいが、もしファルトゥールが自由になるようなことがあれば、サラの身が危ない。


 いや、すでに最悪の事態になっている可能性も。

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