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忘却の宿命

「考えてもみて下さい。あなたはエンディオーネ様のお力でこの世界に召喚された。しかしこの世界はエンディオーネ様のものではない。ロートス様、あなたがこの世界の住人として認識されているのは、その概念がエストと強く結び付けられているが故なのです」


「さっぱりわかんねぇ。わかるように説明しろ」


「あなたのスキルが異常に多かったのも、エストとの結び付けを強く保つため。それも今や頼りないものになってしまいましたが」


「わかるように説明しろって言ってんだろ」


 俺の存在が世界から忘れられる?

 言ってる意味がこれっぽっちも理解できない。

 マクマホンは眉間を寄せてそっぽを向くと、再び歩き始める。


「エストが消えれば、この世界の人間はあなたのことを忘れてしまう。家族も、友人も、恋人も、仲間も。そうなればあなたがこの世界で存在を保っていられるかも定かではありませぬ」


「信じられるか、そんなの」


「信じる信じないによらず、それが事実なのです。エストを消させたくないが為に、私が偽りを口にしていると思われるかもしれませぬが、残念ながらそれはない。今のロートス様なら、お分かりかと存じますが?」


 そうだ。

 『妙なる祈り』を使えば、目の前の人間が嘘をついているかどうかなんて簡単に見抜くことができる。それを分かっていてあえてこんなことを言うマクマホンが、真実以外を口にするわけがない。


「そうか……」


 死ぬことはこわくない。

 この世界に生きるみんなの為になるのなら、俺の命なんてどうなってもいいと思っていた。けど、大切な人達に忘れられてしまうのは、死ぬよりも辛い。

 俺の顔も、声も、名前も、思い出も。みんなにとっては最初から出会ってもいなかったように、なかったことになる。


「ルーチェ。お前は、知ってたのか? このこと」


 しばらくの沈黙。それでも、答えは返ってきた。


「……うん」


 小さな頷き。


「どうしてお前は、マクマホンみたいに俺を止めないんだ?」


「この人と私じゃ考え方が違うの。『尊き者』を守る、その使命を支援する。どちらを重視するか、帝国の中でもまだ意見が分かれてる」


 なるほど。派閥があるってことだな。帝国も一枚岩じゃないってことか。


 なんつーか。あれだな。

 たぶんエンディオーネにとっちゃ、俺はただの道具でしかないのだろう。自分の望みを叶えるための歯車の一つ。目的が達成されれば破棄される消耗品だ。

 やっぱ気に入らねぇな。神ってやつは。


 俺の足はふらりとどこかに向かう。


「ロートスくんっ」


「悪い。一人にしてくれ」


 ルーチェとマクマホンを放って、ひとりでに動く足に行き先を委ねる。

 自分でも驚くくらいには、心が乱れていた。

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