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状況を整理するんだ

 俺は先生を見る。さっきからお姫様だっこをしたままだ。

 十三歳の体なのに、女性一人抱え続けるのも苦じゃない。俺もここしばらくで鍛えられたか。


「先生。なにかいい方法はありませんか」


「彼女を倒す効果的な手段がない以上、私達にできるのは時間稼ぎくらいです。誰かが彼女を引き付けている間に、塔を探索するしかないでしょう」


 やっぱそれしかないか。


「おーい! ロートスーっ!」


 そこでようやくウィッキーがやってきた。

 シーラとマホさんも一緒だ。


「主様! ご無事ですか!」


「ああ。なんとかな」


 俺は何もしてないし。


「もうやり合ってるみてぇだな」


 引きちぎられた右腕から大量の血を流しつつ塔の前に立つミーナを見て、マホさんが眉をひそめた。


「エレノア。どうだ、奴は」


「怪物ね。腕がなくなってもケロリとしてるわ」


 エレノアも緊迫した雰囲気だ。


 状況を整理しよう。

 こちら側は俺を含め八人。

 エレノア。

 アイリス。

 アデライト先生。

 ウィッキー。

 シーラ。

 マホさん。

 フェザール。


 そして敵は一人。


「この人数差でも有利とは言えないのが悲しいな」


 ミーナは不死身だ。数は関係ない。


「かといって不利でもない。要は奴の動きを封じればいいんだ」


 フェザールが得意げに呟く。


「パパ」


 シーラとフェザールが目を合わせる。


「しかと役目を果たせているか」


「今のところは」


「うむ。もっと自信を持ってそう言えるよう励めよ」


 そう言って前に出るフェザール。


「娘の前だ。父親として格好をつけなければな」


 彼の体が漆黒のオーラに包まれる。かっこいい。


「パパ。あたしも」


 それと対照的に、シーラは純白のオーラに包まれた。


「よし、行くぞ。奴を塔から引き離す。遅れるな」


「うん」


 親子の共闘か。

 これは熱い。

 直後、漆黒と純白が弾丸のようにミーナに迫る。


「見た目だけ。しょぼ」


 言いつつも、ミーナはフェザールの蹴り上げを防ぐこともできず上空に打ち上げられる。それをシーラが追撃。全身の回転を乗せた回し蹴りでミーナを遠方へと弾き飛ばした。


「ウィッキー。まだ戦えますか」


「楽勝っすよ」


「よろしい」


 先生は俺から離れ、吹っ飛んでいったミーナの方を見る。


「ロートスさん。エレノアちゃんと一緒に塔へ。あれがファルトゥールの神殿ならば、サラちゃんを救うてがかりがあるはずです」


「先生はどうするんです」


「私も敵を抑えます。彼女相手なら、何人いても足りません」


「わかりました。連戦ですまんが、ウィッキーも頼むぞ」


「任せとくっす!」


 先生とウィッキーは互いに頷くと、魔法で肉体を強化し、軽やかに跳び去っていった。


「さて……なんか騒がしくなってきやがったな」


 マホさんがグレートメイスを担ぎなおす。


 学園の広場に塔が出現したこと。そして激しい戦闘が行われたことも相俟って、野次馬が集まり始めていた。

 学園生達だろう。親コルト派のクーデターが収まって、外に出てきたようだ。迂闊な奴らだ。


 エレノアが周囲を見渡す。


「マホさん、アイリス。この塔は何があるかわからないわ。万が一にもみんなに被害が出ないよう、ここで見張っておいてほしいの」


「あ? 何があるかわからねぇならアタシらも一緒に中に入ったほうがいいだろうが」


「いいえ……たぶん、この塔には私とロートスしか入れない。女神ファルトゥールがそう言ってる」


「なんだそりゃ」


「先生もそれを分かっていたんだわ。だから一緒に来なかったのよ」


「なんでもいいけどよ。この塔、そんなに急ぎなのか?」


 エレノアは俺を見る。


「わからないけど、先延ばしにしてもいいことはないわ」


 エレノアはファルトゥールに呼ばれてるみたいだからな。早く入りたい気持ちもあるだろう。そこが不安要素なんだが。


「まぁいい。わかった。アタシはそいつとここの番をやってるさ」


「ありがとう、マホさん」


 ふむ。


「アイリス。問題ないか?」


「わたくしはマスターの指示に従いますわ」


「なら頼む。なるべく早く帰ってくるからな」


「お気をつけて」


 アイリスとマホさんなら安心だ。

 こうして俺とエレノアは、塔の扉の前に立ったのだった。

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