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負ける要素がない

 俺は叫ぶ。


「お前ら! お前らだけはスキルも魔法も使える! 遠慮なくぶちのめせ!」


 チートの対象をうまくコントロールすることで、敵の魔法とスキルだけを封じることができるのだ。

 スキル至上主義の世界において、この能力ほど便利なものはない。

 なんたって敵のスキルを無効化できるんだからな。


 と思っていたんだが。


「小生ら死天衆はスキルや魔法に頼らないのだよ! そんな信用ならないものにすがるは愚の骨頂! 筋肉こそ真理なのだ!」


 ウッディは一直線に突撃してきた。

 それを相手するシーラの表情は冷たい。


「死ね! 小娘!」


 まるで鉄骨のように太い腕から繰り出されるパンチ。

 シーラは難なく回避するが、後ろにあった石造りの城壁が角砂糖のように粉微塵に砕け散った。


「なんて力……!」


 俺の隣でエレノアが驚いている。

 確かにやばい。あれがスキルや魔法なしの純粋な力ってんなら、常軌を逸している。

 だが。


「力だけじゃ、あたしには届かない」


 シーラの手がウッディの腕に触れた途端、不思議なことが起こった。ウッディが真上に吹っ飛んでいったのだ。


「なんだとぉっい!」


 ウッディは驚愕の叫びを放つ。

 すごい。シーラのあれはスキルでも魔法でもないぞ。体術の一種。合気道のようなものだ。


 つーか、何気にシーラが戦うところをちゃんと見るのは初めてかもな。

 城壁よりも高く飛んだウッディを見上げ、シーラは両腕を広げる。


「この勝利を主様に捧げます。『キラー・レティセンシア』」


 シーラが跳躍。

 落ちてきたウッディとすれ違う瞬間、そのスキルは発動した。

 ウッディ自慢の腕が、ズタズタに切り刻まれる。いくつもの傷が重なりあい、しかし出血はない。


「なんだこりゃ――」


 いいながら、ウッディは大地へと激突。

 そのまま意識を失った。


「主様の御前だから、殺すのは勘弁してあげるわ」


 軽やかに着地したシーラの決め台詞だった。

 切り刻んでおいて血が出ないなんて、一体どういうスキルなんだ。

 それはともかく。


「ねぇロートス」


「ああ」


 エレノアが俺の袖を引っ張る。


「今のうちに先生を探しに行こう」


 この感じなら死天衆はなんとかなりそうだ。

 仲間に任せて、俺とエレノアで先生を探しに行く方が効率的だな。


「よしみんな! 任せたぜ!」


 俺は走り出す。

 視界の端に移ったのは、ウィッキーの『ツクヨミ』を喰らって精神崩壊するレッガンの姿。

 いやぁ。『ツクヨミ』はマジで強すぎるな。

 事前情報なしじゃ対処不可能だろ。俺以外は。


 そうなると、残るは『体力』のミーナだけか。

 すぐ終わるだろう。三対一になったからな。これで負けるはずがない。時間もかからないはずだ。


 ああ。そうだ。そうに違いない。

 だから、安心して任せられる。


 頼んだぜ。みんな。

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