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はがゆい思いしちゃってんねぇ

「エレノア……!」


 俺は飛び出しそうになる体を押さえ、唇を噛み締める。

 くそっ。今ほどクソスキルを恨んだことはない。俺にもっと強いスキルがあれば、エレノアを助けられるのに。


「ご主人様……」


 サラが心配そうな声を漏らす。


「サラ。俺達が加勢したとして、あのスライムを倒せると思うか?」


「正直、無理だと思います。ボクも多少は魔法の心得がありますが、簡単な補助魔法くらいしか使えませんから」


「そうか」


「すみません……」


「謝らなくていい」


 俺に力がないせいだ。サラのせいじゃない。


 スライムに吹き飛ばされたイキールは、華麗な受け身を取って着地していた。だが、ダメージは隠せていない。片膝をついている。

 エレノアは、マホさんが受けとめていた。


「大丈夫かエレノア!」


「ええ……へいき、よ……」


 片腕を押さえ、エレノアは立つのがやっとのような状態だった。ふらふらしている。


 やがてスライムを覆っていた黒煙が晴れる。


「うそでしょ……?」


 当然の如く、無傷。

 フレイムボルトの雨あられをくらったはずのスライムは、すでに再生を終えて元通りになっていた。


「くそったれが……嫌な予感が的中しちまったな」


 マホさんが悪態を吐く。


 俺はサラに尋ねる。


「あれはどういうことだ。すげぇ爆発してただろ」


「スライムは魔法生物なのです。なので、肉体は魔法をもとに作られています。標準的な個体は、斬ったり殴ったりである程度小さくなると死滅しますが、あれくらいの大きさになるとそうはいきません」


 サラは魔法だけではなく、モンスターにも詳しいらしい。


「そして、極めつけはあのコピースキル『底なしの欲望』です。エレノアさんの『無限の魔力』をコピーしているなら、肉体の再生に使える魔力も無限なんです。だから……」


「勝ち目は、ないってことか」


「……残念ながら」


 ふざけんな。そんなのアリかよ。チートじゃねぇか。


「おい坊ちゃん! こりゃあ流石に無理だ! 逃げた方がいいぜ!」


「だが……くそ……!」


 イキールも分かってきたようだ。あのスライムは普通じゃない。このまま戦えば、敗北は必至だと。

 頼むから早く逃げてくれ。


「マホさん。どうするの?」


「いいかエレノア。このままじゃアタシら全員あいつの腹ん中だ。人を喰って味をしめたんだろうな。腹を空かせて、アタシらを取って食おうとしてやがる」


 俺はサラと顔を合わせる。

 サラはきょとんとした様子だったが、俺にはとあるひらめきがあった。


「サラ。脱げ」


「えっ」


「早く!」


「やっぱりするんですか? こんな状況で襲われちゃうんですか?」


「違うわボケ! ローブを貸せって言ってんだ!」


 半ば強引にサラからローブを引っぺがす。


「ああっ。ご主人様ったら大胆……!」


「一生やってろ」


 俺はローブを羽織ると、フードを目深に被って広場へと飛び出した。

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