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どうしてこうなった

 というわけで夕方まで寝てた。

 すこし寝すぎた感じはあるけども、これくらいでちょうどいいだろう。

 俺はさっそくアイリスを伴い、マホさんのもとに向かう。


「アイリス」


「はい」


「今度こそ、お前に頼れない戦いになりそうだ」


 ピンチの時は決まって誰かに助けてもらっていた俺だが、今回ばかりはそうもいかない。

 アイリスは神族の精神世界とやらに招かれなかった。つまり、エストとは戦えないのだろう。


「マスターには、わたくしの他にも頼れるお方がいらっしゃいます」


「ああ……そうだな」


 戦いに関して、アイリスの右に出る奴はそういないけど。


「それに、敵を倒すことだけが助けではありませんわ。わたくしは、マスターの勝利を祈っています」


「これから戦うのは神様なんだぞ。祈るって……何にだよ?」


「モンスターに神はおりませんから。わたくしの祈りは、マスターとわたくしのつながりに捧げるのです」


 つながりか。

 絆。いや、アイリス風に言うなら、それは愛ってやつなんだろう。

 俺とアイリスの愛に祈る。なんともロマンチックな話だ。


「助かる」


 俺はそれだけを返事とした。面と向かうと、気恥ずかしいこともある。

 やがて高級宿の一室に辿り着いた俺は、扉をノックする。部屋にいるかな。


「はーい」


 扉を開いたのは、なんとエレノアだった。


「あ……ロートス」


 部屋着姿のエレノアは、俺の顔を見た途端、顔を真っ赤に染めた。

 そういうことになった後、顔を合わせていなかったからな。この反応も致し方ない。


「よう」


「よ、ようじゃないわよっ。あの後どこに行ってたの。勝手に帰っちゃうなんて信じらんないっ」


 照れ隠しだろうか。エレノアは語気を強くしてまくしたてる。


「すまん。事情があったんだ」


 エレノアは俺の後ろに立つアイリスを見て、吐き出そうとしていた言葉を飲み込んだ。


「女の部屋に来るのに女連れなんて、いいご身分じゃない。昨日の今日でどういうつもり?」


「怒るなよ。言ったろ、事情があるって」


 アイリスがスライムだと知っているはずなのに、エレノアは不機嫌になっている。どうしてかな。


「マホさん、いるか?」


「マホさん? マホさんなら、ちょっと前に出かけたけど。なに? 私じゃなくてマホさんに用なの?」


 湿度の高いまなざしを向けてくるエレノア。

 ううむ。俺としてもエレノアを慮ってやりたいところだが、今はそれどころじゃないって思いもある。

 すべてを説明するには時間がかかるし、どうしたものか。


「ええっと……話せば長くなるんだが……」


 俺がなんとか要点だけを話そうとした、その時だった。

 廊下の向こうから、おぼつかない足取りでマホさんが歩いてくる。


「っ! マホさん!」


 おなじみのメイド服は真っ赤な血で染まり、足跡のように滴りを落としている。

 肩口から腰にかけて、深い切り傷を負っているようだった。

 エレノアが部屋を飛び出す。俺もすぐに続き、マホさんに駆け寄った。


「マホさん! うそ……ひどい傷……!」


 倒れるマホさんを抱き支えるエレノア。


「逃げ、ろ……」


 マホさんは口から血を漏らしながら、掠れた声で訴える。

 俺でもわかる。明らかな致命傷だ。マホさんは今、死に瀕している。


「なにがあったのよ! こんな……!」


 俺にも何が何だかわからなかった。

 どうしてマホさんがこんなことになっている? 誰にやられたんだ。

 神族会議のことが関係しているのか。だめだ。俺も混乱しちまってる。


「マスター」


 傍でアイリスが緊張感のある声を出した。

 宿の廊下。その両側から、俺達を挟み込むように多くの兵士達が現れた。

 その中の一人に、見知った顔があった。


「おや。また会いましたな、ロートス殿。これは奇遇だ」


 老齢の大男。エルゲンバッハ大尉だ。

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