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三つの条件を説明させてください

 宿に帰ってから、俺は念話灯を用いてルーチェと会話をしていた。

 話題はもちろん、さっきの件についてだ。


『エストの消滅には、欠かせない条件が三つあるんだよ』


 どうやってエストを消すのか、というの問いへの答えだった。


『まずひとつは、〈八つの鍵〉が揃うこと。特別な権能を持つ八人の神族が力を合わせ、最高神エストへの道が開く』


「八人? 神族って十人くらいいなかったか?」


『うん。でも、神族としての力を色濃く受け継いでないと、鍵にはなりえないの』


 マホさんは神族の血が薄いと言ってたな。つまりマホさんは鍵ではないと。


「じゃあルーチェは」


『そう。私は鍵の一つ』


「あのエンディオーネってガキは?」


『エンディオーネ様は、神族の中でも特に血が濃いお方だから、もちろん鍵になりえるよ』


「ふーん」


 つまり、第一の条件はすでに成立しているのか。


「他の条件ってのは、どんなのだ?」


『ふたつ目は、〈妙なる祈り〉』


 なんだそりゃ。


『これはね、最高神エストの加護を受けない者のみが持つ力。神代に生きていた種族達はみんなこれを持ってたって言われてる』


 エストの加護を受けないってことは、つまりスキルを持たないってことだよな。


「亜人か」


『たぶんね』


 エルフとかの一部の種族を除いて、亜人はスキルを持たない。それはエストの加護を受けていないことを意味する。


「待てよ……となると、亜人ってのは運命補強をされていないってことか?」


『ううん。そうじゃないと思う。亜人の現状を見れば、それがわかるんじゃないかな』


「……ああ、たしかにそうだ」


 自分自身に影響がなくとも、周囲の人間の運命が決まっていれば、自ずと亜人の運命も決まってくる。外枠の形によって、内側の輪郭も定まるように。間接的に運命を補強されてるってことになるのか。


『でね。この条件も満たしてるの。神族の末裔の中には、亜人の方もいらっしゃるから』


「おう。いい感じだな。そんで三つ目は?」


『〈尊き者〉の存在……』


 ルーチェの答えに、俺の鼓動が一瞬だけ高鳴った。

 尊き者。たしか帝国の大臣マクマホンは、俺を尊きお方と呼んでいた。


「俺か」


『うん』


 なんてこった。

 結局のところ、エストを消滅させるためには俺が必要だということになる。

 俺の意見がすんなりと通ったのも、それが理由ということか。


「その〈尊き者〉ってのは、一体なんなんだ? どうして俺が〈尊き者〉なんだ?」


 心当たりがあるとすれば、転生者だからか。あるいは、プロジェクト・アルバレスによって運命を人為的に運命を操作されているからか。


『わからないの。どうしてロートスくんがそう呼ばれているのか。帝国を中心とした文化圏に残る古い伝承に、そういう文言があるんだけど。最初にロートスくんをそう呼び始めたのは、たしか、エンディオーネ様だったはず』


「あいつが……」


 だとすれば、転生者だから説が濃厚か。

 いずれにしろ、どうやら俺はこの世界において特別な存在のようだ。


 俺は戦争を止めたい。

 その為にはエストを殺す必要がある。

 そしてそれは、俺にしかできない。


 なんつーか、少々できすぎちゃいないだろうか。

 ここまでくると、誰かに仕組まれている感が否めなくなってくる。

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